完全に切手専用ブログになってしまいましたが、なんとか「本」とつなげるようにしようと思います。
『ヨーロッパの紋章/森護』(河出書房新社)という本をずっと前に買って持っていたのですが、ようやく活躍するときが巡ってきました。
森護さんはNHKの職員であった時代に、ふとしたことからウィスキーのラベルに描かれた紋章に興味を持ち、在野で研究を続けて、日本における紋章学の第一人者となった方です。私はこれまでに『パブの看板 イン・サインに英国史を読む』(河出書房新社)、『英国史のティータイム』(大修館書店)などを楽しく読みました。
さて、今日の話の取っ掛かりは1枚のこの切手。1964年フランス発行の美術シリーズの1枚。なんともいえないおっさんの表情が楽しい切手ですが、このおっさんの正体はアンジュー伯ジョフリー・プランタジニット(1113−1151)。リモージュに現存する名高いエナメル細工の墓板に描かれたものなのです。
注目すべきは彼が持っている「盾」。実はライオンが全部で6頭描かれているこの盾は、ジョフリーの義父(ヘンリー1世)から贈られたという「青の地に6頭の金のライオン」の盾をデザインしたものです。そして、ジョフリーの孫にあたるウィリアム・ロンゲペーはイングランドにおける最初の紋章使用者とされており、それが6頭のライオンなのです
つまり、この1枚の美術切手は、由緒正しい「紋章切手」として取り扱うべきものなんですね。
その他、私が持っている1969年イギリス発行の「ヘイスティングスの戦い900年記念」(なんという渋いテーマ!)のデザインは、バイユーの大聖堂に保管されている綴れ織が元になっていることもこの本は教えてくれます。
『ヨーロッパの紋章』の「はじめに」は、森さんが抱いた何気ない疑問が数点あげられています。(P7)
「楯の両側からライオンや鷲、あるいは人間や怪物がそれを支えているものもあれば、楯だけの紋章もあるがその違いは何を意味しているのか」
「英国王の紋章というが、時代によって異なるばかりでなく、印刷物によってもまちまちであり、日本の紋章のように一定でないのはどうしてか」
「紋章の鷲はその頭を向かって左側に向けているのがほとんどであるが、稀には右を向く鷲もあるのは何か理由があるのか」
「同じ人物の紋章でありながら、楯に描かれているライオンの顔や形が様々なのはどうしてか」
うーん、鹿島さんの『勝つための論文の書き方』で述べられている「良い問いの立て方」を地で行く問題設定ですね。まずは「差異」に注目すること。その見方でものを見ると、ありとあらゆるものが「問題集」として見えてきます。今年1年は、切手を軸に思考してみようと思います。


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