スイバルと言われても最近の人は???だと思う。ましてそれがニコンデジカメのアイデンティティーだったなんて聞かされた日には戦中派と戦後派の会話くらい噛み合わないんじゃないかしら。そのくらいデジタルの時間の流れは早いのだ。
んで、歴史のお時間。ニコン様がコンシューマーデジカメ市場に本腰を入れたと感じられたのはCoolpix900シリーズと言うのに異議を唱える人はいないと思うのだ。決定打は三代目となる950。それまでデジカメに否定的なニコン信者がこぞって買い求めた大ヒットモデルでした。そして最大の特徴ががレンズ回転方式。ニコン様はこれをスイバルと命名されニコンハイエンドと位置付けたのだ。
まぁ、実際のところは当時は高級一眼レフにだけ使われてたマグネシウムを採用したボディやレンズ枠に刻まれたNikkorにお布施したんだろうけどね。
実はデジカメ黎明期に本格的にデジカメを使うユーザーはマクロ使いでした。銀塩に比べて格段に装備が楽になるデジカメは待ちに待ったもの。更にアングルフリーなスイバルはマクロ撮影の強力な武器になる。また風景には力不足の画素数もマクロでは目立たない。
とはいえ、マクロはあくまで写真の一ジャンルであり、デジカメが普及するにつれ、マクロに強いというのはアドバンテージではなくなるのだ。5000の登場と共にスイバルはハイエンドポジションから一歩引いた中間的なポジションになる。
更にデジカメが普及するにつれ「より安く」という命題がのしかかってくる。特にハイエンド以外では絶対なので、コスト高となるスイバル式が生き残る道はなくなる。
んで誰もが最後のスイバルモデルと思ってたCoolpix4500から3年を経た2005年ニコンは突如ニュースイバルを送り出すCoolpixS4である。ただしそれは2003年に出たデザインとしてスイバルを採用したCoolpixSQに近い雰囲気で、明らかに一般向け。もはやそこにかつての「スイバル=ハイエンド」は影も形もなかった。
S4でもかなり驚いたが、翌2006年更に衝撃というか笑激のモデルが出る。後継機CoolpixS10である。個人的にはS4にはニコンの意地みたいなものを感じたけど、S10に至っては、こんなことしてて大丈夫かという気持ちが上回った。だって「売れないって」。
Sシリーズは従来モデルとはターゲットセグメントが大分違う。最大の違いはズームの倍率。10倍というレンジがターゲットにするのはズバリ運動会。先代で見送られたVRも搭載し狙うはファミリーマーケット。そしてその目論見はあっさり頓挫する。
実際のところ、店頭でこのデジカメを初めて手にする人は無意識に「ある構え」をして、おもむろに「あれ、液晶が見れない」と言うのだ。そう、S10のデザインはザクティそのもの。間違いなく右手でボディを鷲掴みする。マクロユーザーには有り難いスイバルもS10のターゲット層には構え方すら解らないという謎のデジカメにしか映らないのだ。
ただし、純粋にデジカメとして見るとスイバルの到達点モデルとして意義は大きい。
まず、光学ファインダーの廃止。実際、光学ファインダーはアングルフリーを制限するだけ。また構えると解るが、スイバルで光学ファインダーを使うとホールディングが非常に悪くなる。昔は液晶が野外ではほとんど使い物にならなかったから、それを補助する意味があったが現在の液晶は飛躍的に進化したのだ。光学ファインダーを省略することでレンズ部の幅を狭めることができた。アドアマ向けであったなら削れなかったと思う、ファミリーモデルだから削れたのだ。
レンズ部の横幅が縮まったおかげで、左手のホールディングが格段にアップした。それまで「摘まむ」感じだったのが、「握る」感じになった。
次に「液晶の進化」。日中でも実用可能な大型液晶の採用。口うるさい輩は「やれホールドが」と言いそうだ(実際右手のホールドは悪い)が、それがどーしたなのだ。スイバルには液晶モニタがベストなのだ。
高倍率で「明るい」ズーム。開放F値3.5固定なのが良い。実はハイエンドCoolpixでは望遠側が伝統的に暗かった。最初の900に採用された小さいフィルター径を守ったのが原因。Sになってようやくこの呪縛から逃れられたのだ。まぁ、逆にコンバージョンレンズなどそれまでの資産が使えなくなった。まぁテレコン系は不要だ。
S4と違うのはVR搭載の有無以外ではバッテリー。S4は単3でS10は専用リチウム。心情的には単3派ですが、昔と違い今はリチウムもサードパーティー製が手に入る(いつまで供給されるかという不安はあるが)。ここはポジティブに考えましょう。
んで、当時のインプレを見ると、アングルフリーと復活のスイバルという内容ばっかし。運動会向けとか学芸会で役立つハイアングルといった書き方がされてない。950を買い求めたユーザーは既に興味の対象がデジイチに行ってしまった言うのが解らんのかな。
ハイエンドユーザーには見向きもされず、ファミリーからは怪しいデジカメにしか見られなかったとは、あまりに寂しい終演じゃないですか。さすがに懲りたのか以後今日までスイバルデジカメは出ないのだ、あぁ無情。
S10で私には多分デジカメで初めてとなるアクセサリーをつけるのだ。それはハンドストラップ。私は邪魔臭くてこのハンドストラップが嫌いだったが、、S10はそんな私のポリシーを曲げさせるくらい落としそうな形状と表面加工なのだ。
歴代最大の大きさとなる995と比較すると、時代の進化を実感できる。ただし、どっちが好きなスタイルかと聞かれたら多分995と答えると思う。

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