デジカメ黎明期から登場し、その初期にはオリンパスと覇権を争い、更にはカメラメーカーすら撤退を余儀なくされるという飽和状態のデジカメ業界において、天下のパナソニックやソニーと並んできっちり自前のコーナーを確保しているカシオ。よく考えたら、これって凄いことだと思うのだ。
そんな伝統あるデジカメメーカーなのに何故か今まで手にしなかった。多分ね私が古い人間なのが最大の理由だと思うのだ。私は「Gショック」世代の前なんで、カシオというと電卓屋というイメージが強いのだ。
そんでも数年前に突如登場した「ハイスピードシリーズ」は物欲を刺激しまくったのだ。それまでNHK特集とかじゃなければ登場しないハイスピード撮影がコンデジでできるなんて夢みたいだった。
初期モデルは望遠に強いアドバンスモデルと家庭向けの薄型タイプ。望遠タイプは値段が高くて手も足も出ないから、家庭向けのが流れてくるのを「じーっと」川下で待ってたのだ。
そんなある日、いつものように「ハイスピード」で検索(正式なモデル名を忘れてしまっているのだ)かけてたら、見慣れないモデルが出てきた。本体のみで4千円。調べてみると、最新モデルのひとつ前でネットでも激安で売られていた。それでもこの価格は限界を超えているので思わずビットしてしまいました。
外観は「正調カシオ」を地で行ってる。カシオ基準の「格好よさ」というか「ダンディズム」というか‥ある意味で極めてジャパン的で世界標準の「洗練」とはかけ離れた姿。ガンダム世代には受けるかもしれない‥このデジカメを「素敵」と思う女性は多分「皆無」。
しかしだ、その中身は外観のイメージ通り。まさしく「秘密兵器」というか「びっくりどっきりメカ」というか「飛び道具満載」、まさに「カシオデジタルテクノロジーのてんこ盛り」デジカメなのだ。
まず、レンズ。何と24mmからの10倍光学ズーム。35mmや28mmからじゃない、24mmからというのが凄い。しかも10倍。銀塩時代に24mmレンズは、一眼レフでもなかなか買えなかった。当然、コンパクトでは想像外の画角でした。いやはや、とんでもない時代になったものだ。
液晶モニターは3型。私みたいな1.5型を体験している世代には、これも夢みたいな大型液晶です。
裏面照射型CMOSセンサー。最新流行の高感度センサーだ。当たり前のように最高ISO3200を搭載している。画質がどーのこーのは意味がない、搭載してるかしてないかが重要。
まぁ、この辺りまでは現代ではある意味「普通」だ。そんでこっからが「普通じゃない」(今じゃこれが普通なのかな?何せ最新のデジカメ事情がとんと解りません)。
まず、コンデジのくせして「RAW」が撮れます。しかも「RAW+JPEG」保存も可能。うーん、このデジカメのユーザーのうち何人が使うんだろう。
「ムーブイン連射」。要するに指定位置に被写体が入ると撮影が始まる機能。三脚とセットで無人撮影ができます。
このデジカメはシャッターボタンが二つあります。一般的な位置とは別にボディ裏面、液晶モニターの右上に「もう一つ」。
この「もう一つ」のボタンは「動画」専用なのだ。そして静止画と動画の切替スイッチがないのだ。いつでも好きなほうをダイレクトに使える。というかですね、今日、娘のクラブ体育祭があって、いきなりの実践投入したんですが、このダブルボタンはメッチャ「実用的」です。
更に動画撮影中に静止画が撮れる。一部のビデオカメラでは出来てたけど、今じゃデジカメでもできるんですね。しかもダブルシャッターのため、特別な操作は不要。ここだと思うときにカメラ用のシャッターを押すだけ。
この場合、静止画の画素数は2メガになりますが、画質よりも「カメラだけで出来るか出来ないか」の方が大きい。この静止画も「同時に」撮れるというのは私を含めた世間一般の「運動会ご用達カメラマン」にとって、高級デジカメの「RAW」と「JPEG」を同時に撮れることより価値があります。
そして元祖「ハイスピード」、これがまた「最高」。
今日の体育祭、小学生なので縄跳びの「時間とび」という競技があります。5分とか10分続けて飛べるかな?というもの。これが撮影するほうはなんとも退屈。また後で見直すときも「ここスキップしようか」てなシーン。しかぁしこれをハイスピードで撮ると、一気に面白くなる。そう、月面遊泳みたいになるのだ(当然5分間フルに撮影したら、後で大変なことになりますよ)。
もうひとつ、練習ビデオにも使える。スタートシーンなどは口で言うより、ハイスピード撮影した動画を見せるほうがはるかに教えやすい(それを子供達が実践できるかは、また別問題)。運動クラブの先生は持つべきデジカメです。
そしてスチルカメラとしてのハイスピード。これは部分的にハイエンドデジイチをも凌駕してます。だってさ、MAX「秒40駒」でっせ。
もっともバッファの関係で「最大30枚」という縛りがある。そう、秒40駒にセットすると1秒も撮れないのだ。タイミングを誤ればお終いだからプロの現場では使えませんね。
それでも使い方さえ間違えなければ「最強の運動会デジカメ」になれる。例えばゴールシーンだけを撮ることにすれば全然問題ない。
今回は初回と言うこともあって秒10駒のパスト0.5秒に設定した。つまりシャッターを押すと直前の0.5秒とその後の2.5秒を撮影する事が出来る。0.5秒はコンデジのタイムラグを見越しての設定ね。このパスト設定はコンデジならではの飛び道具です。
3秒で30駒。ゴールシーンなら余裕でカバーできます。そして秒10駒は高級デジイチレベルなのだ。今までコンデジでは不可能だった「決定的瞬間」をかなりの確率で撮れます、これでパパの尊厳は保たれるのだ。
そして高速連射をいかした機能に「マルチモーション」がある。早い話が「分解合成写真」が撮れるのだ。銀塩時代にこれを行なうには、撮影場所を真っ暗にしてカメラはバルブ、バルカーなどの大容量ストロボを高速で焚くことでシャッターかわりにするという大仕掛けが必要なものだった。
カシオでは高速連射したショットを比較して「動いている」箇所を多重合成していくみたい。だから露出に気を配る必要がないし背景が絶対露出オーバーにならない。出来上がりのインパクトも凄いけど処理技術も凄いことやってます。
だからこんなことが薄型のコンデジで「真昼間」できちゃう。技術はもう想像を超えたスピードで進化しているのだ。ベストショット(ニコンならシーンセレクトだよね)でマルチモーションを選んだら、後はシャッターを押すだけという簡単さです。
ニコンのコンデジにも「マルチ連射」という似通った名前の機能があるんだけど、こっちは単に1画面を16分割して連射記録するだけというものです。マルチモーションとは別物で、またカシオのハイスピードと比較しても「月とすっぽん」カシオの足元にも及びません。
このマルチモーションは一種の合成写真なので、「分身の術」なんかが簡単に出来ちゃいます。けれどこれもスポーツの現場では絶対に使える代物。特に跳躍系「走り幅跳び」「高飛び」の練習に使えること請け合い。
更に、まだ試してないけどハイスピードと「合成」を生かした機能があります。
HSライティングは明暗差の激しい被写体を撮影するときに、3枚の段階露光を行いカメラ内部で合成するというもの。また、HS夜景は通常よりシャッタースピードを上げて高速連射した画像を合成し1枚の絵に仕上げるというもの。
デジカメの泣き所である「ダイナミックレンジの狭さ」を「合成」というアイデアで切り抜ける。カメラメーカーには逆立ちしても出ない(というより絶対に没になる)発想で、どちらも最高毎秒40駒という高速連射から生まれた離れ業。
こんだけのハイテクなんだが、操作はとっても簡単。BSモードから選ぶだけ(メニューからマニュアルで設定することも出来るし、本当はこっちのほうが実用的なんだけどね)。ハイテク機能はユーザーが使いやすいように提供されてこそ価値があるというポリシーを感じます。
ただしだ、このBS(ベストショットと呼んでいる)なんだけど、デフォルトで26シーンも設定がある。ちと過剰サービスというか、かえって混乱する。
例えば、ハイスピード動画でも「子供」「ペット」「スポーツ」の三種類から選ぶようになっている。問題は駒間隔が変わる(だから三種類あるんだけど)のに応じて動画のサイズが変わるのだ。しかし画面ではそこの説明が省かれてる。運動会なら「子供」で充分。安易に「スポーツ」を選択すると「超スローモーション再生」になり鑑賞に適さないばかりか画面サイズが小さくなるというおまけまで付いてくる。
実は最初、私はBSではスポーツを設定していたのだ。しかし、メニューでは再生画面サイズを見てBSだと子供に相当するスピードを選択していた。そして実際の撮影ではBSモードを使わなかった。BSモードで撮影してたら小さい再生画像と超スローモーションになるとことでした。
他にも説明書をよく読むとカメラ本体でHS動画からの画像切り出しもできるし、EyeFiというWiFi機能付きのSDカードを利用しての無線LANもなど凄いことを平然と出来るとんでもないデジカメだ。
正直いって使い方を熟知すれば、運動会にはこれ1台でほとんど対応できる。もうビデオはいらない。だって我が家のビデオは普通のAV端子で、こっちはHDMI端子で出力できる。再生画質はHDMIの圧勝。
唯一の弱点は動画撮影中にズームが使えないことだ。ハイスピードでは完全に不可、HD動画では電子ズームのみ可能だが電子ズームを使うととたんに画質が低下する。現行のモデルは動画ズーム対応してるんかな?だったら欲しいぞ。そのくらい家庭で「使える」デジカメなのだ。

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