2005/12/5

アイリッシュダンスのパフォーマンスを観て  ボストンの思い出

コプリープレイスは、ボストンの代表的なショッピングスポットで、ホテルやデパートも併設された巨大モールである。その中心近くにあるフードコートは、チャウダースープの美味しいお店や、美味しいがちょっと怪しい?照り焼きチキン等のお店が多く、お値打ちに食事が摂れる。そのフードコートに仮設された舞台で、少女達によるアイリッシュ・ダンスショーが行われていた。

クリックすると元のサイズで表示します 煌びやかな衣装で踊っていた少女達

アイリッシュ・ダンスの歴史は、イングランド支配と深い関わりがある。16世紀にイングランドの支配が始まると、アイルランドの伝統的文化活動が一切禁じられてしまった。この厳しい統制は約400年も続いたが、皮肉にも逆境の中でアイリッシュ・ダンスの原型が生まれ、発展する事となった。民族楽器の演奏が禁止されてから伝統的なアイルランド音楽の旋律は家の中で密かに歌い継がれ、またそのリズムは暖炉の火が静かに燃える前で足を踏み鳴らす事(タップ)によって、親から子へと伝えられて来た。最初は1つのステップに対して2つのステップで応えるシンプルな踊りから始まったが、年を経て、複雑なリズムパターンを伴う芸術性を有した舞踊へと進化して行った。

1800年代後半、イングランドからの支配が解かれると、アイルランド復興運動が起こりアイルランド人は彼ら独自の文化の建て直しを図った。長きに渡る抑圧から解放され、その反動からステップ・ダンスは爆発的な進化と広がりを見せて行く。国内では数多くの競技会が開かれる一方、1900年代の初頭にアメリカに渡ったアイルランド移民により、アイリッシュ・ダンスは国境を越えて普及するに至った(映画「タイタニック」では、アイルランド系移民の役を務めたジャック(レオナルド・ディカプリオ)が、1等船室からローズを連れ出し、3等客船でタップダンスを踊っていた)。

クリックすると元のサイズで表示しますタップ用に石を装着した専用の靴 (Diana DG撮影)

しかし、新大陸に夢を馳せ、渡米したものの、移民の多くは雇用に恵まれず、貧しい生活をった。多くのオフィスの軒先には「アイルランド系移民の応募はお断り」と看板がかけられ、民族的な差別を受けた。だが、その結果、彼らは当時アイルランド人にも門戸が広かったショー・ビジネスの世界を目指すようになった。多くの移民がダンサーとして各地の劇場で才能を発揮し、活躍し始めると共に、優れたアイリッシュ・ダンサーが次々とブロードウェイに進出し、脚光を浴びるようになって行ったのだ。

ショーとして人々の注目を集めるようになるに従い、その衣装も煌びやかなものへと変遷した。当初ドレスのデザインは伝統的なアイルランドのシンボルであるタラ・ブローチやケルト柄をワンポイントとして刺繍したものが多かったが、のちにはケルトの幾何学的文様を大きく前面に押し出してその民族性をより強調したり、女性ダンサーの場合は華やかなティアラやウィッグ(カーリーヘアーのかつら)によって、その美しさをアピールしている。

クリックすると元のサイズで表示します 幾何学模様が美しい衣装

また競技会に於いては舞踊の技術のみならず、ドレスの跳ね具合や襟元、袖、アクセサリー、化粧や表情、そして脚の色(健康的かどうか)さえも評価の対象となった。ステップやそこから生まれるリズムの美しさに加え、高度なファッション感覚、そして内面から出る人間的な健康美が高いレベルで融合し、芸術として表現できるダンサーにのみ、最高の評価が与えられるようになった。地方の一舞踊に過ぎなかったアイリッシュ・ダンスがこのような歴史とともに、広く普及したのも、彼らの背負ってきた歴史やメンタリティと無関係では語れない。

クリックすると元のサイズで表示します 本格的に足が上がった姿勢

上半身の無駄な動きを一切廃し、ストイックなまでに足のステップで全てを表現しようとするその動きは、イングランドによる長い支配やアメリカで受けた民族差別に対する辛抱強さや、また強靭な精神力を想像させる。地面に対して常に垂直に踊り、大地と対話しながらリズムを紡ぎだすそのスタイルは、大自然の中で生きてきた彼らの、地球に対する誠実さを想起させる。

クリックすると元のサイズで表示します 地元アイルランドでの路上ダンス

一つ一つのステップの音から、アイルランドの忍耐強く実直な精神が、力強く伝わって来た。アイリッシュダンスの歴史は、彼らがそのアイデンティティを守るための地道な抵抗運動の歴史と言っても良いだろう。ステップの音は、広いコプリーのモールに響き渡っていた。それは崇高な魂の響きにも思えた。

○参考 アメリカの中のアイルランド
http://www.inj.or.jp/seanachai/ireland/05america.html

○参考 日本アイリッシュダンス協会
     アイリッシュダンスの基礎知識
http://www.roisindubh.jp/rincejapan/rinceoir/

○補足
ボストンは、アイルランド系アメリカ人が多く、"Irish America"の首都と呼ばれている。マサチューセッツ州のデータを参照すると、人口の4分の1以上がアイルランド系移民で占めている。
☆アイルランド系アメリカ人の著名人
大統領  ・ケネディ(32代)・ニクソン(37代)・レーガン(40代)・クリントン(42代) 
俳優/作家 ・ハリソンフォード ・グレースケリー ・マーガレットミッチェル
0



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ