2006/11/4

「父親たちの星条旗」を観て…硫黄島での激戦に思う事。  好きな映画と本(一部ネタバレあり)

東京から南へ1250kmの太平洋上に浮かぶ、東西8キロ、広さ約22キロ平方メートルの小さな島…現在は、東京都小笠原村に属する硫黄島。この小さな島で、61年前に何が起きたのか?何故にこの島が激戦の地となったのか?「父親たちの星条旗」という映画を観るにあたり、まず思い起こさねばならなかった。硫黄島…名前が示すように火山岩で覆われたその島には、第二次世界大戦以前、1100名の島民が暮らしていた。しかし、戦局の悪化に伴って昭和19年、島民の一部は軍属として徴用され、その他の人々は内地へ強制疎開させられた。そしてこの地を日本軍は、本土決戦の盾となる最後の砦として、アメリカ軍の上陸を待ち受けた。

クリックすると元のサイズで表示します火山岩で覆われた硫黄島。

この硫黄島の占領を巡り、昭和19年2月…日米間で36日間に渡る激戦が行われたのだが、当時、サイパン、グアム等のマリアナ諸島を占領し、B29の基地としていたアメリカ軍にとって、マリアナ諸島と日本本土の中間に位置する硫黄島を占拠出来れば、B29での日本空襲作戦に大きな役割を担う事が出来る作戦だった。アメリカ軍は、当初日本へ中国からB29を飛ばそうと計画を立てていたが、中国沿岸部は日本軍が制海権及び制空権を得ており、B29に搭載する弾薬、燃料、部品等を運び込むのが困難であった。そこでマリアナ諸島を基地とした襲撃計画が立てられ、実行されたのだが、対する日本軍も、本土との中間に位置する硫黄島から戦闘機を発着させ、迎え撃っていた。当時アメリカ国内でも、長引いた戦争に国民は嫌気が差しており、政府が国債を売って軍事費を調達しなければならない内情があった。そんな背景の中、戦闘機の基地確保の為の硫黄島を巡り、日米の死闘が繰り広げられたのである。

東京都小笠原村硫黄島の地図  クリックすると元のサイズで表示します

アメリカ軍は、この小さな島に、始め飛行機による空爆を加え、日本軍をほぼ壊滅状態にして上陸しようと考えた。約170メートル弱の「すり鉢山」が先端にあるだけの島の形状から見て、占領するのに5日もあれば…という司令部の思惑だったが、日本軍司令部は、サイパンやグアムとは異にして「捕虜となるなら自決して玉砕せよ」という命を廃止し、「最後の1人になってでも戦い続けよ」と、本土の軍備を整える為の時間稼ぎをさせる命が下されていた。よって硫黄島には無数の地下壕が掘られ、さながら日本軍の要塞と化していた。

クリックすると元のサイズで表示します 星条旗を立てた6人の写真。

アメリカの兵士達は、まず上陸後3日目の1945年2月23日に占領の証として星条旗を建てた。この写真は、ピリッツァー賞を受賞する事となる、ジョー・ローゼンタール氏(2006年8月逝去)によって撮影されたのだが、後にバージニア州にある海兵隊記念碑となり、記念切手の図案やポスターにもなった有名な写真である。そこに写っていた6人のアメリカ兵…。実際には、要塞と化した日本軍のゲリラ攻撃に、国旗掲揚の後も戦闘は続き膨大な死傷者を出した。結果、その中の3名も帰らぬ人となってしまった。やがて生き残った3人は、戦線離脱を命じられた。彼らは、軍費調達の為に政府によって『英雄』と祀り上げられて利用されたのだ。ニューヨークのヤンキースタジアム等で開催される盛大なセレモニーに、戸惑いながらも参加する3人。しかし祝福の花火も彼らには砲弾の音に聞こえ、戦地の景色がフラッシュバックしてしまう。

「父親たちの星条旗」は、その6人の兵士の中の1人で、衛生兵だったジョン・ドク・ブラッドリーの息子、ジェームス・ブラッドリーの著書を原作としている。この原作は、戦後4年目にもジョン・ウェインの主役で「硫黄島の砂」と題して映画化されているが、今回の映画で、監督のクリント・イーストウッドは、運命に翻弄され凋落していく3人の姿を通して、虚像化された英雄の内幕を画いている。3人の中で、戦後唯一、まともな人生を送ったとされる、原作者の父、ジョン・ドクも「Corpsman」(コーマン/衛生兵)と叫びながら倒れていった戦友達の声が、生涯耳から離れなかった。彼らにはトラウマとの長い戦いが残されたのだ。

戦場でのトラウマに苦しむ3人。 クリックすると元のサイズで表示します

戦費収集の為に「星条旗」の写真は利用され、情報は操作されて英雄は作り上げられ、真実は握りつぶされた。トラウマで苦しむ兵士の心のケアをする事も無く、軍のメンツばかりを考える軍の上層部には、デレカシーの欠片も見られない…。この映画には、過去のハリウッド映画では語られなかったアメリカの恥部が辛辣に描かれている。

硫黄島の黒い砂の中からは、今も遺骨が見つかるという。硫黄島は61年の時を経て尚、戦いの記憶を抱えたまま、太平洋上に浮かんでいる。

「戦争に英雄なんていないのさ」

映画の主人公、ジョン・ドクの、そしてイーストウッド監督の魂の叫びが聞こえるようだ。(文中 敬称略)

◎ノンフィクション映画「父親たちの星条旗」公式HP
http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/
0



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ