松蔭は言う「僕は毛利家の臣なり。ゆえに日夜、毛利に奉公 することを練磨するなり。毛利家は天子の臣なり。ゆえに日夜、天子に奉公するなり。われら国主に忠勤するは、すなわち天子に忠勤するなり」
この理論では、幕府はあってないに等しい。しかしよくみると、その主君は六百年来、天子へ忠勤をはげんだしるしがない。これは大罪である。
松蔭は、いまこそわが主君をして六百年の過ちを正させなければならないことを知った。
松蔭のこれからの道は決まった、、、、・
自分の行く手じっと見つめる、黙霖に次のように書き送った、、、、
「もしもこのことが成らずして、半途に首を刎ねられたればそれまでなり、
もし僕、幽囚の身にて死なば、われ必ず一人のわが志を継ぐ士をば、後世にのこしおくなり」
そしてこうも付け加えた
「口先でとやかく言うのは、生来大嫌いで、以上のことも平ぜいは口に出しませんが、上人のことゆえ申すのです。僕がこのことによって死ぬるのを、あなたは黙って見てくれよ」
この手紙を読んで、黙霖は毛髪が逆立ち、声を上げて泣いたと感想をしるした。ひと月ほどあと、流僧黙霖は萩を後にした。
『柳子新論』概略
柳子新論は大弐がはげしい気魄で徳川幕府打倒の論をのべたものである。 当時は幕府盛世のときに痛烈な幕府排撃論を展開し、幕末に起こった尊王倒幕運動の一大先声をなしたのであるから、本書は日本思想史上高く評価されてしかるべきものである。
本書は13編からできている。兵学者である大弐が兵書孫子(そんし)13編を模したものである。貫く精神は「正名」の2字につきる。正名は孔子が政治について「必ずや名を正さんか」といったのに基づく。名の乱れの最大は徳川氏が「“名”は征夷大将軍太政大臣であるがその“実”なく、“実”は天子の位を僭窃している」(正名)ところにある。どうしても「名を正して君臣二なく、権勢一に帰せしめなくてはならない」(得一)と大義名分論を真っ向から幕府につきつけた。具体的には次の13編である。
1編・正名 2編・得一 3編・人文 4編・大体 5編・文武 6編・天民
7編・編民 8編・勧士 9編・安民 10編・守業 11編・通貨
12編・利害 13編・富強

川浦玄智訳 山縣大弐著「柳子新論」
参考文献
筑摩書房・日本の思想17 歴史読本・第18巻8号 講談社山岡荘八著・吉田松陰 新潮文庫山本周五郎著・明和絵暦・夜明けの辻 山県神社誌 飯塚重威著・山縣大弐正伝 成美堂出版徳永真一郎著・吉田松陰 山県大弐著・柳子新論 川浦玄智訳注

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