新年が明けてから、久しぶりに博物館へ行ってみた。
冬期には自分の美的感覚が鈍るため、各種美術館・博物館・寺社仏閣へは出向かないのが常である。
寒くて家から出るのが億劫だという、もっと切実な理由のためと言えなくもないが。
それでも今回、博物館がどうなっているのか、しばらく行っていない間にとんでもない物品が展示されているのではないかなどと不安にかられ、常設展示無料の日に、ちょっと覗いてみる気になったのであった。
どうせ新年の浮かれた時期だからゆるい展示だろう、とタカをくくってでかけたら、どうして何だかすごく充実した常設展示だったので驚いた。
仏像の部屋では仏師・清水隆慶という江戸時代の仏師(初代・二代)の特集が組まれていた。
これが面白かった。
17、8世紀の仏師ということだが、その仏像ではなく、たわむれに作ったという関羽の像とか、大黒天とか、千利休像などのちょっと変わった、極彩色で作った像ばかりを集中的に展示してある。果てはドクロ像(木造)まである。
サイズは小さく、1/6ドールサイズである。ドクロは1/2くらい。
百人一衆という、町人達が町ゆくようすを本棚のような棚に並べたものは、ミニチュアサイズで、ちょうどフィギュアを棚に並べたコレクションのようで、実に興味深い。
清水隆慶という人は絶対にオタク気質があったとみた。
2階へ行くと、新春特集陳列と題して「社寺伝来の名刀」の陳列がある。
これは毎年行っているものだ。
私は刀に興味がないのでいつも盛り下がるのだが、由来を読むと、結構かなりなものが展示されている。
目玉は毎年「伝左文字」という重要文化財の刀で、武田信虎が今川義元に与えただの、桶狭間で信長が義元を討った時のものだの、それを信長が奉納しただのと書かれている。本当かどうか分からないが、銘には信長の字が彫られているので、信長に由来する刀なのは確かなのだろう。
そのほか、坂上田村麻呂の所持していた刀だとか(昔のものなので反りがない)、秀吉が奉納した刀だとかいろいろあって、ほんとかよ、と疑いながら見る。
京都は武将とはあまり関係のない土地なので、刀などあまり残ってないのではないかと思うが、そうでもない。
神社やお寺に奉納された刀が沢山あるようだ。
絵画のお部屋では何と若冲の特集がしてあった。
百犬図、石灯籠図屏風、果疏涅槃図、鶏頭蟷螂図など、細見美術館以外で京都で見られる若冲の図の代表的なものはほぼ展示してあり、驚いた。
なかでも「燕子花小禽図」は、燕子花の茎がクネクネとありえない様子で一回転していたりして若冲のマニエリスム炸裂、この絵は実物を初めて見たので面白かった。
「雪梅雄鶏図」も初めて見た。若冲の中ではよくあるモチーフなのだが、花も、鶏のポーズも見なれたものでなかったので新鮮だった。
あと「百犬図」は動植綵絵と同じくらいの大きさなので、あのシリーズに入っていてもおかしくないよなー、と思ったり(製作されたのは晩年だが)。
私の好きな絵巻コーナーは、江戸時代の平安ものを描いた雅系ばかり集められていて新春らしさ抜群。
書跡のコーナーはいつもならスルーするのだが、国宝の手鑑「藻塩草」というのが展示されているのだった。
良く分からないが、いろんな書の断片を集めたものだ。
それから「古文書貼り交ぜ屏風」というのも展示してあり、これも有名な武将やら何やらの文書や書簡を集めて貼ったものという。
それと豊臣秀吉消息というのが何通か。
高台寺が所蔵していて、秀吉の夫人ねねに当てた手紙、というのがある。
重要文化財と書いてあったから、秀吉の直筆なのだろうか。
吉野の花見の時に読んだ和歌、というのも展示してあり、まあ私は秀吉は嫌いだが、こういうのを見るのは楽しい。
あと千利休の消息とか、古田織部消息、小堀政一(小堀遠州だと思う)消息などがあった。
新春だから大サービスだ。
いつも堅苦しい中世絵画の所では、「山越阿弥陀図」という国宝も飾ってあった。
そこは新年に相応しい来迎図でまとめられていた。
結局、どのコーナーも見応えがあったので殆どスルーすることなく見てしまった。
新春陳列って、結構盛り沢山なのだなあ。
若冲はいつ見ても楽しいし、久しぶりに見たから嬉しかった。
2月は応挙・芦雪・呉春特集が、3月には池大雅特集があるらしい。
なかなか良きラインナップではないか。
そして、私のお気に入りの金戒光明寺の文殊菩薩騎獅像は今回も展示されていたが、3月頃にはいよいよ元のお寺の方に戻り、そこに鎮座されるらしい。
気軽に見られなくなるので今のうちにじゅうぶん見ておこうと決意するのだった。

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