グランプリファイナルの結果が出たあと、日本のテレビ界で、非常に気持ちの悪い出来事があった。
それを思うと未だに鬱々となる。
うすら寒くなるというか、岩をどけてみたらゲジゲジを発見して思わずもう一度岩を塞いでしまったというような、そんななんとも言えない気持ちの悪い思いだ。
ファイナルの平均視聴率は24%ほど、瞬間最高視聴率は40%で浅田真央の優勝インタビュー時だったという。
これは浅田真央が依然として日本人に人気があり、彼女が優勝する場面を日本人が見たかったという現れなのだろう。
日本人は本当に浅田真央が好きなのだ。
それと共に、日本人が(韓国に)勝って優勝する、というシチュエーションが好まれた、と推測することも出来る。
ともあれ、多くの人が浅田の優勝を見た。
翌日、それらの人々は、浅田真央が史上初の3A2回認定で優勝、という快挙にまだ酔っており、朝から浅田バンザイ、というおめでた番組を期待して、テレビのチャンネルを合わせた。
そうしたら、テレビで放送していたのは、浅田はなぜ勝ったのか、実力は実はユナの方が上、3Aを2回飛んでも浅田は勝てない、ユナの方が表現力も上、衣裳もシックでセンスが良い、浅田は子供っぽい、もっと表現力を磨かないと駄目、…
という番組だった。
どのチャンネルも各局、横並びで同じ論調。
腑に落ちない。
善良な視聴者は戸惑った。
歴史的な記録を達成した浅田そっちのけで、ユナの方が実力も表現力も上?
昨日の試合を見ていた視聴者は思う。
あの初めだけは威勢が良くて、終盤減速して止まりそうなステップで、体力がなくなってジャンプもミスする、目つきの悪い貧相な選手の演技が、激しくも美しい怒涛のステップを右に左に踏み分ける真央ちゃんよりも上?いったいどこのどの部分が?
いくらワイドショーがでたらめでいい加減でも、これはおかしすぎる。
とくに8チャンネル、フジテレビは、フリップボードまで出して来て、もしユナ、真央が両者ともノーミスだったならユナが勝っていた、と禁断の「タラレバ論」を展開した。
タラレバ論は言ったらキリがなくなる。
だからタラレバで語ることはまったく無意味で、最も忌み嫌われる。
それなのに、フリップまで出して来て「本当はユナが勝っていた」。
視聴者は、浅田真央の快挙に酔っていた頭に冷水を浴びせられたようなショックを受けた。
真央は優勝してはいけなかったのか。
テレビの論調では勝った真央が悪い、実力もないくせに、と言わんばかり。
その後フジテレビはデータが間違っていたとして、何日か後に初めの報道を訂正したと言う。
よほどの抗議が殺到したのだ。
ワイドショーのようないい加減な番組で訂正が入るのは、異例のことではないだろうか。
私は夜の番組でNHKがユナの特集を組んだ時に、激しいショックを受けた。
NHKまでがユナ特集。
グランプリシリーズは調整試合と言われているから、大きなニュースに取り上げるまでもないだろう。
けれども、浅田が「史上初の国際試合での女子3A2回認定」で優勝したことは、少なくとも話題になってしかるべきだ。
けれども、そんな試合で2位になっただけの選手をわざわざ取り上げる、その意味は?
我々はユナのことなど何一つ興味はない(選手としてのユナはともかく)。
いくら韓国で人気があろうとパンが売れようと、そんなことはどうでも良い。
それをなぜわざわざニュースでいちいち取り上げるのだ。関係のない外国のことなのに。
しかも浅田に勝ったのならともかく、負けているのに。
「実力はユナが上」だからなのか?
この時私ははっきりと、テレビ界に何が起こっているかを察した。
この一連の報道は日本人の視聴者に向けたものではない。
テレビを見ているのは日本人なのに。
テレビは下らないので、もともとあまり見ないようにしている。
でも今度のことでは、本当に「テレビは平気で嘘をつく」「テレビは情報を操作する」ことがよく分かった。
テレビは下らないからと見ないでいると、いつの間にかこういう操作がなされているのだ。
そのことに寒気がした。
いつも自分の意見を好きに言っているように思えるコメンテーターが、実は台本通りに言わされているに過ぎないことも分かった。
彼らはまるで自分の意見のように台本を上手に喋れるから、起用されているだけなのだ。
こういうテレビのカラクリまでが炙り出されてしまった。
彼らは台本のままに日本をなじり、韓国を絶賛までする。日本人なのに。
そう言えばテレビのワイドショーは、まるで人々が興味のない泰葉というニ流タレントをしつこく報道したり、まるで興味のない横綱をしつこく追いかけたり、和泉もとやというようなどうでも良い人をしつこく追いかけて叩きまくったり、まるでどうでも良い石井だか石川だかの若いテニス選手(ゴルフ選手?)を延々と報道してみたり、ノーベル賞を受賞した教授をしつこく追いかけて、節度のない取材をしたりしている。
(この場合、どうでも良いと言うのはニュースバリューがあるのか、という意味だ)
何かが狂っている。
いやなら見なければいい、と避けているうちに何かとんでもないことになってしまっている。
我々視聴者と、テレビ製作側の感覚が乖離しすぎている。
テレビが新鮮な情報を選んで人々に与えることも必要ではあるだろう。
しかし、今のテレビには必要でない情報が多すぎ、必要な情報がなさすぎるのではないかとも思う。
あのファイナル翌日の横並びのユナ賛美放送で、ユナは完全に日本人に嫌われた。
ほんの数分の印象で、人々がそれを判断してしまう。
テレビはこわい。
フィギュアスケート放送だけではなく、テレビ放送そのものに、疑問が出て来た。
今回の騒ぎで、テレビに対して、不信感というよりも嫌悪感が募るようになった。
これほどテレビの薄汚さを思い知らされたことはない。

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