森浩一先生がなくなられた。
考古学のえらい先生だ。
私は大学の時、大教室で習ったことがあるのだ。
大学の授業のうちで、一番面白いと思ったのがこの森先生の授業だった。
大教室だったが、話が面白かった。
この間松本清張と話をしたのだが…、とか、有名人の話も出て来た。
天皇陵について、埋葬されているのがあやふやなので、天皇の名前で呼ぶべきでない、せめて天皇陵古墳と言うべき、などと熱っぽく語っておられた。
三角縁神獣鏡についてもはっきりした意見をお持ちで、それを大教室だというのに私たちにきりりと語ってくださっていた。
その頃は壮年でエネルギッシュで、元気な人と言うイメージしかない。
もう85歳にもなられていたとは到底思えない。
新聞記事などで時折お見かけする、だんだん細く枯れていかれる写真に心を痛めていた。
こんなに早く亡くなられるとは思わなかった。
新聞ではかなり大きく誌面を割いて特集記事が組んであったのが幸いだった。
現場主義の人で、私たちに現場へ出かけてそこで現物を見て来い、とはっぱをかけられていた。
でも私は現場と言うものがどこかも分からず、行く気にもならず、どうせ一般教養だからと、レポートを書く時は、森先生の本を買って来て参考にして、それで文章を作って提出した。
それが今でも心残りだ。
でも、そのレポートに良い点数を下さった。
やさしい先生なのだと思った。
森先生に習ったことは、私の人生の中では数少ない誇らしいことではあるまいか。
大教室の片隅で、先生の話を楽しみに聞いていた日々が思い出される。
ご冥福をお祈りいたします。

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