NHK BSプレミアムで、2020年9月11日、
「世紀の大発見か ダビンチ もう一枚の油絵」という番組が放送された。
レオナルドの世紀の大発見!?
「もう一枚の油絵」とはどのような絵だろうか?、
「サルバトールムンディ」以外にレオナルドの絵が発見されたのか?
気になってしようがなかったので、録画しておいた。
番組は、外国のドキュメンタリー番組を日本語に吹き替えたものだった。
番組の冒頭から、その絵が登場する。
何の絵だろうと思っていたら、
「糸巻の聖母」(一般には「糸車の聖母」と言い慣わしている)のことだった。
世紀の大発見か、というのは番組タイトルの釣りだったようだ…。
「糸巻の聖母」はよく知られた絵で、昔からレオナルドの工房か、
ルネサンス期の画家ソドマの作品だと言われていたようだ。
何十年か前、オークションか、鑑定かだったかが行われ(詳しいことは忘れた)、
レオナルドの絵ではないかと言われ、
鑑定を頼まれた日本のレオナルド研究家(田中英道)はレオナルドではない、
或いは工房の絵だろう、と一蹴した。
自分もその頃、話題になったこともあり、この絵について書いたことがあるのだ。
03/12/18 盗まれたレオナルド・ダ・ヴィンチ?
http://isabea.web.fc2.com/memora/essay/stolen.htm
↑ここに詳しいことが書いてある
2003年に書いたものだからずいぶん昔のものだ…
(サルバトール・ムンディについても…)
2017/10/17
http://isabea.web.fc2.com/memora/essay/salvador_mundi.html
確かにレオナルドが良く使うモチーフを沢山使っていて、
レオナルドらしさを出すためにそれらしきモチーフを切り貼りして作り上げた、
レオナルドに近い工房か、模作だろうと(自分は)考えた。
(サルバトール・ムンディの項目の所で、
「糸車の聖母」もなし崩し的にどさくさ紛れにいつの間にか
レオナルド作とされているようだし…
と書いている💦)
この絵は有名で、2つのバリアントがある。
スコットランドのバクルー公爵家が所蔵する通称「バクルーの聖母」と、
プライベートコレクションの通称「ランズダウンの聖母」と呼ばれる
2点のバージョンだ。

「バクルーの聖母」
これは聖母の顔が遠近法的に少しひしゃげているような気がして、
不自然な感じがするのだが…
今回、番組で取り上げられたのは「ランズダウンの聖母」だった。
昔は別の画家の作品だと考えられていたので、安くでオークションで売られるなどして、
現在は個人コレクションになっているという。
この「糸巻の聖母」を新たに修復することになり、なんとルーブル美術館に持ち込まれた。
その修復の過程をドキュメンタリーで追い、
レオナルドの当時の活動(ミラノ時代からフィレンツェ、そしてフランスまで)を
改めて紹介するという番組の作りになっていた。
番組は2019年11月放送の再放送だということだったので、
その時点で修復は終わっていたが、
現在、どのような評価がこの作品に下されているのか…、そこまでは分からなかった。
ルーブルの女性修復師は、修復が進むにつれ、
レオナルドの特徴が現れて来るのを目の当たりにして、
これはレオナルドの絵だと確信したらしい。
彼女は絵のディテールのどれもこれもが、レオナルドの特徴を示しているという
意見だった。
確かにレオナルドらしさに満ちてはいる。
聖母の顔、手のかたち、イエスの巻き毛、手の描写、背景の薄いブルーの山、
模作とすればレオナルドからモチーフを借りて来ているのだから、
似ているのは当然だろう。
問題は果たしてこの絵に本当にレオナルドの手が入っているか。。
レオナルドの工房の作だとしたら、
弟子とレオナルド本人の手が入っていたとしてもおかしくないからだ。
ドキュメンタリーで絵のアップが映ると、そのディテールの細かい所が分かる。
確かに非常に緻密で、特に髪の毛の描写を見ると、とても繊細で、
レオナルドに間違いないと思えてしまう。
背景の山々も、「モナリザ」に出て来るような丁寧な背景で、
レオナルドの特徴が現れている。
修復師たちは大絶賛している…。
これはもしかしてレオナルドの手が入っているのか?
番組を見ていると、それは間違いないように思われてくるのだ。
絵を見た修復師の女性や、ルーブルの専門家たちも、
一様にレオナルドの手が入っているという意見だった。
それなら確かに、「世紀の大発見」となるところだ。
昔からあり、レオナルド以外の画家の絵だと考えられていたものが、
修復を経て、汚れが落とされ、絵の詳細がくっきりと分かるようになると、
レオナルド(と工房)の作品だと位置づけられるようになるかもしれない。
そんな風に思われた。
「糸巻の聖母」には、数多くの模作やレプリカがあり、
それぞれ美術館に納められているが、原作を忠実に再現したものも中にはあるという。
それらにより、もともとの作品(背景にある描写など)がどういうものだったかが
分かるという。
絵を描き進むうち、描かれた背景が消された可能性もあるらしいので。
昔の絵にはよくあることではあるが、それがよりいっそう謎を深めているのかもしれない。
この作品は個人コレクションなので、今回ルーブルに持ち込まれ、
修復が行われたが、それが終わると元に戻したらしい。
番組の最後には
「修復が終わった糸巻の聖母、
世界にお目見えする準備は整った。
ルネサンス絵画を愛する人たち
そしてレオナルド・ダ・ヴィンチの専門家たちは
この絵を巨匠の作品と見るだろうか
皆さんもぜひご自分の目で確かめて欲しい」
と結ばれていた。
・・・・・
えっ!?鑑定は見る者に丸投げ?
最後に驚いた。
自分の目で確かめて欲しいというわりには、個人のコレクションなので、
恐らく簡単には見ることは出来ないだろう。
そして、この番組は2019年11月分の再放送ということだった。…
それから今日までかなり時間が経っているが、
この「糸巻の聖母」がレオナルドの真作として認められているだろうか。
そのような話は聞かないのだが…。
番組では「糸巻の聖母」をルーブルにある「聖アンナと聖母子」のそばに置き、
比較していたりしたが、修復を終えるとまた、
ルーブルからひっそりと運び出されたのだろう。
それから1年、
未だに「糸巻の聖母」が「世紀の大発見」とセンセーションになっているとは
聞いたことがない。
つまりそれは…ということなのだろうか。
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