ちょっとひと息。
耐震補強工事のため、休館していた南座で行われていた年末恒例の顔見世興行は、
一昨年は歌舞練場で、昨年はロームシアター京都でと、流浪していたが、
このほど耐震工事が終了し、3年ぶりに南座に帰り、行われた。
南座発祥400年、南座新開場記念と銘打って、大々的にお練りも行われ、
話題にもなった。
久しぶりに、11月、12月、と2ヶ月に渡って興行が行われた。
今は12月の新しい演目になっているが、(演目は総入れ替えになった)
11月分に身内がチケットを取ってくれたので、
何十年ぶりかで顔見世へ行って来た。
席は25000円もした。
1階のわりと前の、花道のちょうど横で、俳優たちがそこを通るたび、
その汗までが見えたりして、大迫力だった。
いやあ、素晴らしかった。
久しぶりに歌舞伎を見て、感動の嵐だった。
仁左衛門さまを見に行って、染五郎を見て帰った。
行って来たのは昼の部。
1毛抜(歌舞伎十八番の内)
2連獅子
3恋飛脚大和往来封印切(ふういんぎり)
4鈴ヶ森(鶴屋南北作)
(襲名披露の口上は夜の部で、見ることは出来なかった)

招きの下に各演目のイラスト
☆1 毛抜は左團次が主人公を演じる。
江戸の推理ドラマというような面白い展開で、
あるところの姫が、髪が逆立つという奇病を持つため、
縁談を破談されそうになっている時、
そこに招かれた主人公が、自分の使っていた毛抜(とげぬきのようなもの)
(歌舞伎なので、デフォルメされ、巨大化して表現しているのが楽しい)
が踊り出すという、奇妙な現象が起こることから、
合理的な(?)解決に至るという、まさに推理小説のような展開の作品。
私が毛抜を初めて見たのは猿之助(今の猿翁?かな)で、
たわむれに小姓をからかうというホモホモしい場面が少しだけあり、
楽しかった。
今回の左團次は声がよくなく、張り上げるとガラガラ声が強調されて、
ちょっと聞きづらかった。
左團次はとても好きな役者さんだが、脇役の方が光ると思った。
☆2 連獅子
今回、染五郎から松本幸四郎へ、
その子供(15歳くらいらしい)が染五郎と襲名しての、親子競演。
松本幸四郎一家(前の人は白鸚と名乗る)はあまりよく知らなくて、
自分はアクの強い白鸚よりも、中村吉右衛門の方が好きだったので、
染五郎(現・幸四郎、…ややこしい…)の消息はまったく知らなかった。
こんなに大きい子供がいるとは知らなかった。
この新・染五郎があまりにも素晴らしすぎた。
連獅子のテーマであるらしい、
親獅子が小獅子を谷底に突き落とす━
というよく知られた逸話を、舞踊で完璧に再現していた。
連獅子はテレビでもよくやっているから、頭を振り回すのがすごいな〜
くらいの、今までは軽い感想しかない演目だったが、
舞踊なのに、改めて(或いは初めて)
この作品のテーマを深く感じ入ることが出来た。
テレビでは絶対にこの迫力は味わえない。すごい熱演だった。
親獅子に邪険にされ、花道を高速でバックしてゆくところは、
体の後ろにロープがついていて、
花道の後ろでびゅーんと引っ張っているのかとさえ思ったくらい、
後ろを見ずに、まっすぐバックで走ってゆく。
若くて元気だからこその迫力だ。
一部の舞踊の場面(三部に分れている)からして、
染五郎の踊りの体がキレキレ。
いちいちポーズが決まっているし、驚くほどカッコいい。
惚れてまうやろ、という感じ。
「この子、親を超すね」
というのがもっぱらの評判だった(約2名)。
三部ではいよいよ親子での頭を振る毛振り。
圧倒的な迫力。
染五郎は台の上で、体が横になってもお構いなしに頭を振りまくる。
父の幸四郎が柔らかく、まさに子を見守るような感じの表現に比べ、
一直線でがむしゃらな小獅子の表現は今がまさに登り調子の盛りで、
キレキレの動きが清々しい。
京都新聞にインタビューが載っていたが、
親獅子を振り落とす勢いで演じたい、と。
幸四郎はうまく子供を育てたなあ(笑)という感想を持った。
ちなみに連獅子は初めて見た。
☆3 封印切
片岡仁左衛門が主人公のダメ男を演じる。
ダメ男を演じさせたら天下一品。
第一場でしなしなと登場して笑いを誘うが、
のちの悲劇を想像すると、この典型的な「色男、金と力はなかりけり」が、
切なく迫る。
傾城の梅川に惚れ抜き、今日も今日とて廓通いだが、
金だけがない主人公・忠兵衛。
ライバルの金持ちで、梅川を身請けしようとする八右衛門に雁次郎が扮する。
じわじわと忠兵衛を追いつめる演技がうまい。
出自の貧しさと金の無さをさんざん侮辱され、
ついに我慢できずに(今でいう)公金を横領し、
封印を切ってしまうクライマックス。
小判を手からじゃらじゃらと滑らすその小判がキラキラとライトに当たり、
胸を突かれるクライマックスだった。
封印を切ってしまったからには、死罪は免れない。
観客は、主人公と梅川の行く末をもう知ってしまう。
二人きりになった忠兵衛は梅川に、
「(一緒に)死んでくれ、死んでくれえーー!」
叫ぶ男の情けなさと切なさ、やるせなさ。
これがダメ男の仁左衛門の真骨頂だった。
梅川に扮するのは片岡孝太郎。仁左衛門の息子ではなかったかな。
雁次郎はうまい。背の低いのだけが難点だ。これだけは仕方ないけれども。
脇役で左團次が出ていて、やはり脇役の方が光ると再認識した…
☆鈴ヶ森
鶴屋南北原作の、白井権八(愛之助)と、
幡随院長兵衛(白鸚)が肝胆相照らす、泥棒(雲助)たちが潜む森の中での一幕。
権八と泥棒達との殺陣が残虐なのにユーモラスに描かれ、
ブラックユーモアと言っていいだろう。
白鸚の呂律の回らないような台詞回しが気になった。
これは彼の特徴なのだろうか。
あまり好きになれなかった。
☆☆☆
というわけで、11月の顔見世・昼の部へ行って来たが、
後半の12月はまた違う演目が揃う。
(口上はもうないようだ)
愛之助が「弁天小僧」をやるようだ。
「白浪五人男」は有名なわりには滅多に演らないと思っていた。
今まで南座で見たことはなかった。
浜松屋の場面と、勢揃いの場面、全部やるようだ。
弁天は、思うよりは難しいと思う。
立役がやっては女装をした時、いかつすぎて様にならない。
かと言って、女形が演じれば、
女装を解いて開き直った時の凄味がなかなか出せないだろう。
愛之助ならちょうどいいような気がする。
仁左衛門一家(松嶋屋)が三代揃って共演(義経千本桜で)するのも
話題になっている。
仁左衛門の孫は千之助と言うそうで18歳。
仁左衛門によると、
「やはり無理な荷物を背負わさないといけない。
「まだ30キロの荷物しか持てない者に60キロを挑戦させる。
60キロを持てなくても、それに挑戦視することで次に30キロを
持つ時は楽になる」
千之助は祖父・仁左衛門について
「ウルトラマンと同じくらいのヒーローで憧れ。
少しでも近づけたら」
(京都新聞・11月21日付)
仁左衛門のメソッドは、
関係ないかもしれないが、誰かを思い出させる。
そのことを一人で考え、やってのける世界級のスケーターだが。
千之助くんの発言も、
歌舞伎界ではこうして芸が継承されてゆくのだなと。
それも、「継承」を標榜する彼に繋がる。
幸あれ。
***
顔見世後半も期待大である。
(私は行くことは出来ないが、これから行く人は期待していいような)

恒例の南座前の壮麗な招き。初めて撮ることが出来た。

幕には幸四郎一家の襲名披露記念の名前
すぐ横に花道

南座の新しくなった格天井。
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