「はやぶさ」が帰還する日が待ち遠しい。それにしても、毎日”変態”新聞の記事らしくない記事です。
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20100129k0000m070147000c.html
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人類初の小惑星への着陸・離陸に成功した日本の小惑星探査機「はやぶさ」が6月、地球に帰ってくる。致命的なトラブルに何度見舞われても、「不死鳥」のようによみがえる姿は、宇宙ファンのみならず世界の人々の心をとらえた。科学技術予算をめぐり、昨秋に行われた政府の行政刷新会議の事業仕分けでは税金を投入する意義が話題になった。「科学技術に具体的成果は必要か」。はやぶさの奮闘は、この議論にも一石を投じると考える。
はやぶさは03年に打ち上げられ、地球と火星の間の軌道を回る小惑星イトカワを目指した。
小惑星の岩石採取や、新型イオン(電気推進)エンジンでの飛行など、米国すら成功していない「人類初」に挑戦、一つ一つ実現させた。軽自動車ほどの小さな機体の開発費は、わずか127億円。限られた予算の中、無駄をそぎ落とし、破格に安い惑星探査機としても注目された。
はやぶさの「すごさ」は、それだけではない。姿勢制御装置が故障したり、7週間も通信が途絶えたほか、イオンエンジン4基のうち3基が故障するなど、地球に帰還できなくなってもおかしくないトラブルが相次いだ。
これに対し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のプロジェクトチームは、約3億キロ離れたはやぶさに指令を送り、エンジン噴射や太陽の光の圧力を使った姿勢制御を成功させ、故障した2基のイオンエンジンのまだ使える装置をつなぎエンジン1基を復活させるなど、「神業」で望みをつないだ。
この手に汗握る「ハラハラ」「ドキドキ」に人々は一喜一憂し、「はやぶさ頑張れ」との声援が広がった。私はイトカワ着陸直後の06年1月、本欄で「はやぶさから科学のワクワクを教わった」と書き、科学技術に確実な成果を求める声に対し、夢への挑戦を許容する懐の深さを求めた。
科学技術予算に成果を求める声は強い。巨額で、右肩上がりで増え続けてきたからだ。事業仕分けでは「多額の税金を投入した効果が見えない」「世界2位ではだめなのか」などの批判や疑問が浴びせられ、科学者側が反発、その攻防に注目が集まった。
科学技術予算に無駄がないということはない。事業仕分けの指摘のように、複数の省庁が似た研究分野に税金を投じたり、開発の見通しがないまま巨額の予算を使い続けた揚げ句に開発が中止されたGXロケットの例もある。他方、科学の芽をはぐくむ若手研究者支援や、世界に先駆けたイノベーション(技術革新)を目指す世界トップレベル研究拠点事業など、成果が生まれるかどうか不確定ながら、新たな挑戦を支援する分野も予算縮減が求められた。
私は、仕分けの指摘をきっかけに、今後の科学技術が、一層「役立つもの」や「成果が見えやすいもの」に傾くのでは、と心配になった。
先月、神奈川県相模原市内の小学校で開かれた宇宙教室を見学した。的川泰宣JAXA技術参与が子どもに宇宙の魅力を語る会だ。雨傘を入れるポリ袋を使ったロケット作りでは、「早くやりたい!」「翼の角度はどうする?」「投げ方で飛び方が違うね」と大はしゃぎ。「子どもの発想は豊か。いろいろ自分で考えてくれる」と、的川さんはほおを緩めた。
この子どもたちが見せた好奇心こそ、科学技術の原点ではないか。宇宙開発の人文・社会科学的側面からの研究を進める木下冨雄・京都大名誉教授(社会心理学)は、「未知への好奇心は、人間の本質的なDNAといえる。好奇心が科学を生み、技術を育て、人類を進歩させてきた。それに逆らえば、人類は衰亡への道を歩むだろう」と述べる。
はやぶさの目的は、小惑星の岩石をカプセルに入れて持ち帰ることだ。燃料効率のいいイオンエンジンは、今後の惑星探査の切り札になり、太陽光による姿勢制御は、「宇宙ヨット」と呼ばれる新たな航行技術につながる。だが、はやぶさが人々の心をつかんだのは、目に見える成果だけではなく、未知の世界に挑む姿があったからこそだ。
「未知への挑戦」か「具体的成果」か。科学技術予算が議論になる背景について、木下名誉教授は「日本の国家戦略として、どのような道を歩むべきか決断されていないから」と指摘する。仕分けの際も、多くの科学者が「政府が科学技術をどう位置づけようとしているのか見えない」と不安を訴えた。
科学技術政策が話題になっている今こそ、未知の領域に挑む投資を含めた日本の科学技術の青写真を、国レベルの議論で描くことが必要なのではないか。
はやぶさの7年間の旅は、目には見えない科学技術の魅力を教えてくれた。予定では、6月、カプセル分離後、オーストラリア上空で大気圏に突入し、本体は燃え尽きる。その光跡を見て、日本の科学技術をどう育て、利用するかを考えるきっかけにしてほしい。(東京科学環境部)