失われたものは還りません。
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JR東日本が2010年の事故の復旧に130億円が見込まれるなどとして、岩泉線廃線の方針を明らかにした30日、沿線の岩泉町や宮古市で反発や落胆が広がった。伊達勝身町長は記者会見し「並行する国道が整備されて安全ならともかく、手を付けてこなかった県の怠慢もある」と怒りをぶちまけた。
達増拓也知事は「鉄道の早期復旧を要望してきただけに、大変残念」との談話を出した。近く山本正徳宮古市長、伊達町長と会い、鉄路復旧を求める考えを確認する。今後、(1)復旧費用と沿線の危険度の検証(2)地域住民への説明の申し入れ(3)国に対しJRへの指導、助言の申し入れ――を行う。山本市長も「今後、駅を中心にした街づくりで地元も協力する」と話した。
これに対し、盛岡支社で会見したJR東日本の石司次男・副社長は、代替輸送はバスが有力で、乗車賃は鉄道運賃と同額にするなど廃止を前提に説明。「鉄道より時間はかかるが、現在のマイクロバスでの輸送は順調だ」と話した。地元と協議し国に届け出れば1年後、正式に廃線が決まる。
岩泉町によると、現在、代替輸送を担うのは25人定員のマイクロバス。揺れが激しく、病院通いの人は乗りにくいという。地図から鉄路が消えることで観光への影響も無視できない。
地元のホテル社長中村貞司さん(58)は「
先人が苦労して造った鉄路。残念で悔しい」と語った。02年から岩泉線ツアーを主催し、年7千人の客を集めたが、JRは当初、団体券を発行せず、乗客増への意欲が感じられなかったという。
同町大川の岩泉高校2年川村竣哉さん(17)は「すごく寂しい。夏休みやゴールデンウイークは観光客でいっぱいで座れなかった」。バスとなってからは最終便が早いため、部活動を30分早く切り上げている。
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《解説》 1日平均乗車人員46人(2009年度)はJR東日本断トツの最下位。被災前の三陸鉄道北リアス線でさえ530人で、たしかにあまりに少ない。とはいえ、山田線の支線で行き止まりのうえ、事故前のダイヤは1日3往復。あまりに利用しにくい状態を放置したあげく、事故を契機に放棄する。
JRは「民間企業」を強調し、株主への責任を廃線の言い訳にするが、地域への影響が大きい決定を「民間」が一方的にしていいのか。もとは国が造った旧国鉄路線だ。津波で被災した山田、大船渡両線も乗車人員は岩泉線に次いで少ない。JRが同じ言い訳でバス高速輸送システム(BRT)化や廃線を推し進める時に歯止めがなくなってしまう。
国鉄分割民営化時、極端な赤字路線は経営から切り離したうえ、山手線などドル箱路線と抱き合わせて地方のローカル線を維持する枠組みを作った。復旧費が大きいからやめるというのは、アクシデントを想定した経営枠組みを作らなかった政府の責任ではないか。
また、並行する国道340号はトンネルを含め、道幅の狭い箇所が断続する。代替バスはマイクロバスしか走れない。鉄路が消える場合、同国道を管理する県は安全で確実なバス輸送に責任が持てるのか。
同じ赤字路線でも第三セクターの三陸鉄道は昨年、被災から数日で列車を走らせ、住民に力を与えた。被災地ガイドなど積極的な増収策に取り組み、世論の支持を得て国費による復旧に道筋をつけた。JRに存続を陳情するだけで有効な乗客減対策を打たなかった県や宮古市、岩泉町の責任は重い。少ない利用客数を強調し、暗に地域住民のせいにするような責任回避の言い訳は通らない。