初代ゴジラ1号スーツは固くて動きづらく、メインスーツの座は続いて製作された2号スーツにゆずり、腰で切断した上半身・下半身のそれぞれが撮影で使用された、というのが通説である。
曰く、下半身スーツは足元のアップに多用され、上半身スーツは海面からの出現シーンに使用された、という。
一方で、造形担当の利光貞三氏が上半身のみの初ゴジを製作中の有名なスナップ写真がある。
写真には、完成後切断されたと思しき1号スーツの頭部が造形の参考用として置かれており、製作中の上半身がは2号スーツのものであると説明されてきた。
だが、背ビレの配列・形状や、プロポーションが完成した2号スーツとは著しく異なり、この製作中の上半身モデルが2号スーツであるとは首肯しがたい。
むしろ、『ゴジラ画報』初版P149に著される「大きすぎる未使用初代ゴジラ」という説明のほうがしっくりくるのである。
さて、『ゴジラ』本編を改めて見直してみると、実は分断された1号スーツとされてきたプール撮影用、出現シーンのゴジラが、実は製作途中であった上半身モデルが完成した姿であったのではないか、と思えてきた。
1号・2号・上半身モデルの大きな違いが背ビレの配列と形状である。
以下、写真よりトレースした模式図を示す。
中央列、一番大きい背ビレとその上の背ビレは、ニュアンスの違いこそあれ、ほぼ似たような形状を取る。
相違点はその上の小型の背ビレである。
1号スーツは2番目に大きい背ビレの上が3つ又ないし4つ又、その上は台形の小さなものとなる。
2号スーツは2番目に大きい背ビレの上がV字の背ビレ、その上が台形の小さなものとなる。
つまり、1号の3つ又ないし4つ又の背ビレの代わりに2号ではV字の背ビレが付く。
一方、利光氏が製作中の上半身モデルでは、1号と2号両方の背ビレを合わせ持つ。2番目に大きい背ビレの上に4つ又の背ビレ、その上にV字の背ビレが付くのである。
次に海面からの出現シーンにおけるゴジラの背ビレの模式図を示す(品川上陸前のシーンよりトレース)。
このシーンをよく見ると、4つ又の背ビレとV字の背ビレの双方を備えていることがわかる。この特徴は製作途中の上半身モデルと一致する。
つまりこれは、1号ではなく製作途中だった上半身モデルが撮影に使用されたということではないだろうか。
この上半身モデルは海底下のシーンでも使用されている。
本編1時間30分あたりのゴジラがそれである。
このシーンのゴジラは、前後に登場する2号スーツとは明らかに異なるスーツである。
かつて、1号スーツではないかと推測したが、このシーンもまた上半身モデルであろうと考えられる。1号の特徴に下向きの掌が挙げられるが、この海底下のシーンでは掌は横(内側)を向いている。これはむしろ上半身モデルの特徴に近い。
さて、それでは切断された1号ゴジラの上半身がどうなったのか、という疑問が残る。
下半身を切り離したとはいえ、固くて動きがぎこちないスーツを危険なプール撮影で使用するのも不自然である。結局、上半身スーツは新造したものが使われ、1号の上半身はお役御免となったのではないか。
案外、頭部を切断したまま復元されることはもなく余生を過ごしたのかもしれない。
あるいは、特殊プラスチックの焼きが甘く、ボロボロになったと伝えられるのが1号だったのかもしれない。

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