心の脱衣室

　野暮な男の一人身は　テレビ煙草のヤニが着く

　季節知るのはカビ臭さ　シメジが生えぬを良しとする

　夜就く仕事は丸の内　無事にこなしてご苦労さん

　汗と埃の作業着を　詰めたバッグを肩に掛け

　素直に帰れば有楽町　それでは喉が憩わなし

　テクテク歩いて都営線　宝町まで缶ビ−ル

　昇る朝日が遅うなる　秋も増したか袖元を

　折った腕元不似合いと　銀座マネキン笑わるる

　舌で味わう季節有り　目で見る草花然りかな

　しみじみ感じぬ都市暮らし　麻痺をしとるは我が心

　ふとした香りに止る足　振り向き戻って探すれば

　小さな喫茶の軒先に　小枝花咲く金木犀

　それからかれこれ２０年　毎年出逢うを楽しみに

　仕事帰りの回り道　香りに恋すも有りきかな

　突然職を失えば　道草楽しみまでも消ゆ

　通勤出来ない失業者　今年も見事に咲いたやら

　気になり過ごした一年を　後悔迎えた翌年の

　深き秋を確かめに　その香りだけ嗅ぎに出かける

　

　都市が寝ぼけの生あくび　昨夜宴の酒の息

　申し訳無い体たらく　平素が未定の朝迎え

　そんなあまたの民衆が　無事な「今日」をば過ごせるか

　夜明けて疑問も持たぬのは　「昨日」に残した余題故え

　天変地変人為事故　咄嗟の持病も発作出す

　朝で始まる当日に　命灯ふとした風で消ゆ　

　巨象か虚像か東京の　体流れる血のごとく

　血管走る地下鉄に　ヘモグロビンなる人が居ず

　都心稀なる景色なり　嵐の前の静けさか

　血行不良の大都会　低血圧者の目覚めかな

　三途の川にもトンネルか　渡しの舟など遺物なり

　大量輸送であの世まで　我は何処にて降ろされる

　懐具合もさぶい身で　見掛けもさぶく背を丸む

　心さぶくし震えてても　暖房入らぬサブウェ−

　

　心変わるは恋の路　久しく受けて愛と成す

　賢者説きたる愛の法　恋に迷うた人すがり

　親無き我が身濡れ枕　他人様より遠き人

　幼心が恋しがる　父ちゃん母ちゃん祖母のせな

　雷打たるる初恋は　詰襟着たての中学生

　学校認可の絵画売り　ピアノの少女はルノア−ル

　唯一心を許せたは　６弦ジャランと鳴るギタ−

　流行フォ−クを口ずさむ　他者の恋歌白々し

　少年男と成る頃に　恋した車はフェアレディ−

　Ｚのフォルムを手に入れて　ふるさと捨てたは２１

　恋しい恩師が残したる　法灯心に据え置けば

　軋み音立つ煩悩が　か細い正義を捻じ曲げり

　天職我に示したれ　暗中模索の綱渡り

　易き安泰願わぬが　法に恋する甘さ見ゆ

　頭髪白さが増す季節　初冬の域に近付けば

　若き彼の日を恋しがる　怠惰の日々が疎ましき

　恋の中には自我が在り　無心の愛は五里霧中

　くもり弱った心の眼　連れ添う鯉の泳ぎ見送る

　

　久住連山雪帽子　枯れた音立つススキ原

　ゼロ戦ハヤトの防寒帽　頭見せたり隠れたり

　忍者部隊月光の　絵の入るズックで駆け出せば

　陣取りごっこの草むらに　へなちょこ手裏剣はらり舞う

　草を編みたる簡易罠　落とし穴はやり過ごし

　敵陣近くて抜く刀　意味無き呪文の九字を切り

　鼻水タレても健やかな　悪ガキ遊びを見るカラス

　毛糸のセ−タ−日向臭　くっ付く種子をバカと呼ぶ

　エイ!!と斬られて倒れれば　茜に染まる高き空

　大の字仰ぎて早き息　遠くで機関車ポ−ッと鳴く

　敗戦国家の生き残り　戦争放棄を掲げ立つ

　戦争ごっこに興じる子　武器をおもちゃと与えられ

　勝って嬉しいはないちもんめ　負けて悔しいはないちもんめ

　泣いたカラスがもう笑う　浅い反省お子が継ぐ

　靖国神社の遊就館　展示は零式艦上機

　幼心に憧れた　ゼロ戦血で描く赤き丸

　鎮魂願う聖場に　傷付け合うたる武具配す

　神へ差し出す命灯が　地獄の火焔を引きずるとも見ゆ