タバコ無きまま終着地 小雨に借り傘差して降る
この沿線の人々の 辞書にタバコは載らぬやら
一本道の雑貨屋に 冷えたビ−ルが見て取れて
何処を開けるかサッシ戸を ガタガタやっても主は来ず
レジと呼ぶには奥がまし 飴色台から居間が見ゆ
渡良瀬鉄道初物は 我が好むの煙箱
傘の柄首肩はさめして ビ−ルは脇でしかと止め
封を開けるを追い越して ライタ−持った手疎ましき
花冷え駅舎に戻りたら 折り返しには時間有り
チェンジスモ−ク3本目 時間潰すのモノが無し
揃いの制服運転手 ワンマンカ−に二人連れ
駅舎雑談点す火の 灰皿寒き外に在り
一つ灰皿無言では 我のみ一人浮きまする
先ほど鹿の剥製を 車窓に見たぞと笑みて告げ
それは大変本物と 間違い見落とし鹿をはね
人身事故より手間の要る 書面は天然記念物
3/11いかがした 丁度乗客トラブルで
3分遅れで発車して レ−ル崩壊免るる
彼等は駅舎の小屋根下 一つの灰皿雨の中
どうぞこちらへ誘われて 体も心も近付けり
アユにイワナも釣れる場所 釣ってはいいが食べられぬ
ホットスポット放射能 彼等も思案の土地の民
戻りの時刻で乗車する ワンマンカ−の二人連れ
一人は見張りでスクと立ち 些細を声にて掛けたもう
出発前の運転手 今日は悪い予感せし
そんな気もする重き雲 見張りに託す我が身なり
無事に山麓降り来たり 運転交代若者に
窓の中より手を振れば 背筋正して一礼をくる
