すっかり更新をサボっているうちに梅雨まっただ中の7月になってしまいました。なのに、なんですが、今日は少し長い話を書きます。最近ネット上で結構話題になっていた、ミュージシャン&プロデューサーS氏のブログについてです。ちょっと読んでみてください。そのブログの題は「音楽家が音楽を諦める時」
→ @
http://masahidesakuma.net/2012/06/post-5.html
この文章にある種々の問題点については追々僕の考えを書きますが、実はこのブログより先にこのブログを批判した人の文章を先に読んでしまい、頭に血が登ってしまいました。「最悪。心底腹が立つ。」というコメントを付けて自分のFacebook上でこの批判ブログを「シェア」してしまいました(Facebookをやっておられない方には何のこっちゃ?でしょうが)。そのブログの題は「金がないから『いい音楽』作れない?〜ビジネス感覚なき職業音楽家の末期症状」こちらも長いですが読んでみてください
→ A
http://kasakoblog.exblog.jp/18220333/
僕はA→@の順で読んだばっかりに冷静さを失って「最悪」とAを罵倒してしまいましたが、皆さんがいま2つのブログを@→Aの順で読んだとしたら、随分印象が違ってきてはいないでしょうか?
確かにAを書いた人はS氏への悪感情を剥き出しに書いていますから、読む人に敵意を抱かれがち(事実僕も腹がたった)な文面になっていますが、ゆっくり双方を読み返してみると彼のS氏批判にも頷ける部分が多々あります。
・まずS氏は自分の文章の冒頭で「ここで言う音楽とは自分の職業としての音楽のこと。(中略)職業演奏家・作曲家・編曲家・レコードプロデューサーとしての音楽」と音楽・音楽家を定義し、それを止めようかな?と漠然と考えている、と書いている。
・昨今では「一枚のアルバムを作るには1200万〜1500万の予算」をかけることができなくなっているのは、冷徹な事実である。
・S氏が「職業としての音楽」と自分で定義しているのだから、その制作に「ビジネス感覚」が必要とされるのは当然のこと。ブロガー氏は確かにグロテスクなまでに音楽のビジネス側面を強調しているが、その土俵で議論を始めよう、と言い出したのはS氏のほうである。
・「ちゃんと真面目に音楽を作るにはそういう金額がかかる」のは、ある側面では真実をついているかもしれない。が、しかし、その金額を調達できないような音楽『業界』の衰退を招いたのは『業界』自身の責任ではないか?S氏はその真っ只中にいたのだから、衰退の責任の多くを担うべきである。
・ブロガー氏は「費用対効果」のような刺激的文言を用いているため、反感を買いがちであるが(事実僕も反感をもちました)、上記僕が述べてきたような理由でS氏の発言に甘えがみられることは否めない。僕とて「じゃあ、お辞めになるのもいいですね」と言いたいところだ。(僕は「老害は退場を!」までのキツイ言い方はしませんが…何しろ僕も充分お年寄りなので、苦笑)
端的に結論を言うと、喧嘩をふっかけたブロガー氏の物言いは大人気ないしS氏に対する礼を失しているけれども、喧嘩を売られてもしょうがない情けない泣き言を自身のブログで発言してしまったのはS氏のほうなので、どっちもどっち、というのが事後に@Aを読み返して冷静になった今の僕の正直な気持ちです。
もちろん昔S氏の在籍していたバンドは今でも大好きですし、僕の大好きなバンドのプロデューサーもしておられるので、かたを持ちたいのはやまやまですが、今回の「音楽を諦める」ブログは非常に残念です。職業音楽家ならば職業音楽家らしく志を貫いていただきたい。今回のブログが色々な誤解を招いた、ということで追加ブログエントリーやWEBマガジンのインタビューでも発言しておられるようですが、少なくとも喧嘩を売られた今回のブログは全くイタダけない、と思います。
久しぶりの更新にもかかわらず、さらに長くなるので恐縮ですが、S氏の今回のブログおよびその『炎上』騒ぎは、音楽とビジネス、という非常にややこしい問題に色々な示唆を投げかけていると思います。
・S氏が職業音楽家であるのに対し、僕らは他に職業を有し非職業音楽家として活動を続けているわけですが、そんな僕らでも音楽のビジネス的側面とは無縁ではいられません。ライブハウスへ見に来てくれるお客さんとは金銭のやり取りがあるし、CD、CD-R、Tシャツなどの物販だって行なっています。
・音楽(この場合音源?)制作にコストがかかるのも事実です。かけられる金額と音楽の質(いわゆる良い音)にある程度の比例関係が成り立つのも事実かもしれません。しかしそんな比例関係が成り立つ世界だけで閉じこもっていては、見えてこない「良い音楽」もあるはず。非常に手前味噌な例になりますが、VAMPIRE!が一番最近制作した音源一曲の制作費は一万円以下です。しかしそれを聞いた多くの友人からは「良い」とのお褒めを頂いています。
・僕らの活動スタイルでもビジネスと無縁でいられないのは先に書いたとおりですが、それでもやはり「一枚のアルバムを作るには1200万〜1500万の予算」のような世界とはかけ離れたものがあります。ですが、そこでも「良い音楽」は作れるはずですし、事実僕らの周りにはそんなところで「良い音楽」を日々奏でている連中が沢山います。その中には何とか自分なりのやり方をみつけて(ほぼ)職業音楽家として活動している方々もいます。彼らのアルバム制作のコストの単位はS氏の言う金額より二桁は低いでしょう。
要は音楽にビジネスの側面があるのは確かであるが、そのビジネスの成立のさせ方(シンプルに言えばコスト&リターンの金額の単位)には様々なやりかたがあるはずだ、ということが言いたかったのです。S氏の言うような世界は「業界」のそのまた一部にすぎない。
この話題、語りだすと尽きないので、又の機会にも書いてみたいと思います。
実は一旦Aの文面で頭に血が登った僕がここまで冷静になれたのは、Facebookで自分のオットに「どちらに腹を立てているの?」と質問してきたツレのおかげです。色々議論をしてもらい、冷静にもなったし問題点がクリアになった。この場を借りて感謝したいと思います。

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