2008/1/16

ボストン美術館「浮世絵名品展」V…錦絵の印刷技術と色革命  日記(今日思うこと)

浮世絵の『錦絵』=『多色摺木版画』は、天明(1781〜1789年)から、寛政(1789〜1801年)の江戸後期に全盛期を迎えた。浮世絵を現代風に言うなら出版物であり、暦絵を始め、芝居役者のポスターや、角界の相撲絵などには、『版元』と呼ばれるスポンサーがあった。この頃になると絵師の下絵に基づいた「掘り師」と「摺り師」に於ける印刷技術も頂点の極みに達したと言われている。
クリックすると元のサイズで表示します「越後屋」奥村正信 1745年
健在の三越デパートの前身。透視図法で距離感を出し奥行きがある絵となっている。


版木には、中国年画から学んだ『桜』の木が使われ、その木の質を見極めながら、絵師の下絵のラインを彫り分込んだ。中でも、髪の毛などは1oに5〜6本も彫り込んであり、美術館でも見入ってしまった。堀師は、当時、摺師よりも格の高い扱いを受けており、彫師の名が入った浮世絵もあるという。また、何枚も使用した版木を、色ずれを起こさないように刷り上げる技術は、版木と紙の性質を熟知していなければならず、も摺り師の技術も決して侮れない。ぼかし=グラデーションを入れる辺りは、摺師の腕の見せ所であったそうだ。因みにこの時、何枚もの版木に「見当」=(版木の右下に付けられた鍵型の印)をつけて摺り上げる事から、「見当違い」という言葉も生まれたという。
「鷹狩り行列」(部分)クリックすると元のサイズで表示します
喜多川歌麿 (1802〜1804)


※以下は、主な浮世絵の特徴的摺り方の例と解説
1. から摺
麻の葉模様とか、女性の長襦袢の襟等によく使われている。絵の具を付けず、版木の凹凸によって模様を摺り出している為、無色の中に模様が浮き上がり見える。

2. 布目摺
 から摺の一種で、夏物の生地である、絽や紗(目の粗い布地)を切り、換板に張って模様を摺り出す。版画を手にした時、着物の質感を出す為に行われた。

3. 雲母摺(きらずり)
 文字通り、岩石に含まれる雲母を使って光沢感を出す摺り方で、キラキラと光りラメが入って見える。東洲斎写楽や喜多川歌麿の作品で有名になったが、享保の改革の頃には、贅沢品として禁止された事もある。

4. 胡粉散らし(ごふんちらし)
 胡粉とは貝の殻を焼いた粉で、現代も雛人形の顔等にも使用されている。膠(にかわ)を水に溶いた溶液に混ぜて振りかけ、雪や水飛沫などの表現に使用した。保存状態によっては、酸化して黒くなってしまっている事も多い。


また、染料については、前回にも書いたが、年を追うごとに研究され進化している。色の種類も墨一色から始まり、数種類から十数種類にもなって行く。この色使いによって、浮世絵の製作年代を示す基準にもなるという。以下は、浮世絵に於ける『ブルー革命』と『レッド革命』と呼ばれる、大きな色の変遷について記す。

1. ブルー革命
焼き物等に使用され、日本の伝統色とも思われがちな『藍色』は、実は江戸後期になって取り入れられた。浮世絵の青は、主に露草からとった植物性の染料が使用されており、光によって退色し易く、非常にデリケートな色であった。蓼藍(たであい)から取れる天然藍も室町時代に中国から伝来していたが、庶民的な浮世絵には、高価すぎて殆ど使用されていなかった。慶応3年(1867年)パリ万国博覧会に出向いた薬品問屋が持ち帰った酸化コバルト青…『ベロ藍』(ベロリン藍)と呼ばれる化学染料が普及し、その後の浮世絵や焼き物に使用され大流行した。尚『ベロ藍』とは、1880年、ドイツのワグネルによって発明された青色顔料で、ドイツの首都、ベロリン(ベルリン)から取って『ベロ藍』と呼ばれた。

2. レッド革命
摺師が「惜しむこと金の如く」と言ったと言う程希少価値であった、紅花の赤は、実際花から取れる色は、99%が黄色で、赤は僅か1%だったという。朱は丹絵にも使われていたが、ここで言う「赤」は文明開化によって輸入されたアニリン性化学染料の「赤」で「開化錦絵」とも呼ばれる『明治絵』に多く使用された。三代歌川広重、三代歌川国貞らを始めとする浮世絵師達が、それまで高価で使えなかった、赤をふんだんに使った作品を残したという。(アニリンとは、写真現像液や、かつて解熱鎮痛薬として使用された、アセトアニリドを合成する成分)

クリックすると元のサイズで表示します切手…江戸名所と粋の浮世絵(1シートの部分)

ボストン美術館の「浮世絵名品展」には、『明治絵』は展示されていないが、赤色が強烈過ぎて、芸術的価値が低いと評価されて来た『明治絵』も、今日では、浮世絵の歴史を知る上で貴重な史料とされているという。江戸初期、墨色から朱色の二色の塗り絵…「丹絵」に始まった浮世絵も、皮肉な事に、日本では、文明開化以降の西洋化によって廃れていく事になるのだが、浮世絵作家の技術の集大成でもある気がして、その歴史的価値を確かめる為に、一度肉眼で観てみたいと思っている。

◎参考
・小林 康夫 (著)「青の美術史 (isの本)」
・ボストン美術館「浮世絵名品展」図録
・山口県立萩美術館「明治絵−文明開化の世界展」より
・アダチ版画研究所
http://www.adachi-hanga.com/

※「浮世絵名品展」については、一先ず完結します。
0



2008/1/17  2:19

投稿者:ほたる

ぼくあずささん、ラグビーシーズンもまだまだ続き楽しみですね。

>ほたるさん
私の学友に江戸文化歴史検定1級保持者がいます。

それは素晴らしい方ですね、是非、お目にかかってお話がお聞きしたいです。

>持続力があり、研究熱心な ほたるさん。検定に挑戦されたらと思いますが如何ですか。

まぁ、それは光栄なお言葉ですが、何せ江戸時代は長過ぎて、
好きな事しか熱心でないし、チャレンジは出来ても、確実に落っこちます。
どちらかと言うと、私は戦国時代が得意です。
それか、いっそ短い大正時代の歴史検定は無いものでしょうか?

>勝手な戯言、お許し下さい。

いえいえ、光栄です。ありがとうございました。


☆ぼくあずささんへ

2008/1/17  1:54

投稿者:ほたる


ポエムさん、いつもありがとうございます。

>浮世絵は興味を持って見た事が
ほとんどありませんでした。

私も、ボストンでビゲローコレクションを観るまで、
殆ど興味が無く、勉強不足、何故にモネやゴッホらが、浮世絵の影響を受けたか?
その理由を想像することすら、出来ませんでした。

>ほたるさんに教えていただき、
又、賢くなれました!!

ありがとうございます。
頭の中に自分で覚えて置きたい事…書きたい事が溢れて、上手くまとめられず、
読み難い文章を読んで頂いて、嬉しいです。

>1ミリに5〜6本の髪の毛を彫るって!
驚きました。

はい。美術館で観た時も、思わず近付いてしまいました。
素晴らしい技術ですよね。

>髪が上手くできないと、顔が完成してても
絵になりませんね。

確かに、髪の毛の存在って大きいですよね。
西洋の絵を見ていても、髪の描き方が如何に難しいかが分かるように思います。
仕事柄、ヘアースタイルの絵を書いた事があるのですが、元々下手ですが、
かなり難しかった記憶です。

>これは、私の拙いお絵描きの感想ですが…!

デジタルでは、もっと難しいのでしょうね。
先日見た、デフォルメ人形でも髪型の難しさを感じました。
でも、ポエムさんの絵…人や人形も、描いて下さいね。楽しみにしています。

☆ポエムさんへ

2008/1/17  0:26

投稿者:ぼくあずさ

ほたるさん
私の学友に江戸文化歴史検定1級保持者がいます。持続力があり、研究熱心な ほたるさん。検定に挑戦されたらと思いますが如何ですか。勝手な戯言、お許し下さい。

http://flueren.blog.ocn.ne.jp/

2008/1/16  10:25

投稿者:ポエム

浮世絵は興味を持って見た事が
ほとんどありませんでした。
ほたるさんに教えていただき、
又、賢くなれました!!

1ミリに5〜6本の髪の毛を彫るって!
驚きました。
髪が上手くできないと、顔が完成してても
絵になりませんね。
これは、私の拙いお絵描きの感想ですが…!

http://blog.goo.ne.jp/kaseifuwa-mita


※投稿されたコメントは管理人の承認後反映されます。

コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ