つい何日か前にマキシム・スタビスキーの事件を知ったばかりだ。
新聞でもNHKのニュースでも報じていなかったようなので、全然知らなかった。
知ったのは偶然で、ネットでだった。
もしかしたら、知らないままの方が幸せだったかもしれない。
私はデンコワ・スタビスキーのファンだ。
フィギュアスケートは好きだけどテレビで見るのみで、スケートの試合や、ショーを見に行くほど熱心ではない。
だから、彼らのファンだと言っても、彼らが来日する度にスケートリンクへ追っかけて見に行く、というような熱烈なファンではなかった。
ただテレビで見るだけで、テレビを見て彼らを知り、そして良いなと思うようになった。
昨年(2006年)と今年、彼らは世界選手権で優勝し、世選の2連覇を達成したが、関西での放送がなかったため、両方とも見ていない。
ファンなら、世選のVTRをどうにかして手に入れたいと思うものだろうが、それもしないままだ。
その程度だから、私など彼らの薄いファンなのかもしれない。
けれども、今回の不幸な事故のことを知り、薄いファンだったから、もうスタビスキーに幻滅し、馬鹿としか思わず、嫌いになったかというと、全然そうではない。
私はこれからもずっと彼らのファンでいるだろう。
というよりも、ファンでいるしかない。
事件を起したからといって、急にファンをやめられるだろうか?
私は何度も言うように、フィギュアスケートの中でアイスダンスが最も好きで、いつもそれが楽しみでスケートを見て来た。
理屈ではない。ただ好きなのだ。
日本の選手の活躍などは実はどうでも良い。ついでだから見るだけだ。日本選手の名前も覚えて来たが、頑張れニッポン、あの人が頑張っているから私も頑張れる、なんていう態度とは最もかけ離れた見方をしている。
ただドラマチックで美しいアイスダンスが好きだというだけだ。
アニシナ・ペイザラーが好きで、その前はウソワ・ズーリンを愛していた。
アニシナ組が引退したあと、虚しい思いを抱いていた時に惹かれたカップルがデンコワ・スタビスキーだった。
3つのカップルで、どの組が最も好きか、多分デンコワ組は3番目だと思うが、それでも自分の好きなカップルが現役で活躍しているのは嬉しいものだ。
マキシム・スタビスキーはロシア出身だが、ロシアでは目が出ず、ブルガリアへ来てアルベナ・デンコワと出会い、そこで華開いた。
おそらく、背が低かったためにロシアではダンス選手としてなかなか用いられなかったのだろう。天才的なスケートセンスを持っているのに、ルックスで辛酸を舐めた。
世界選手権で2連覇したデンコワ・スタビスキーは、ブルガリアでは英雄のような扱いだと聞く。
そのスタビスキーが、飲酒運転の末に事故を起し、正面衝突した相手の車に乗っていた男性を死なせた。他に同乗していた3人も重症で、一人は意識不明だという。(スタビスキーは無傷だったという)
スタビスキーのしたことはどのように考えても弁解の余地はなく、許されることではない。
だけど、私は被害者の家族ではなく、彼のファンなのでこう考える。
もし、以下に書くことで腹を立つ思いをする人がいたら謝罪しなければならないが、正直な気持ちを綴る。
彼のしたことはどのようなことであれ、してしまったことはどうしようもない。
今最も重要なことは、スタビスキー本人が自分のしたことをどう考えているかということだろう。
彼が自分のしたことを心から悔いて、そのことと向き合い、これからの一生涯をそこから逃げるようなことをしないで欲しい。
私が言えるのはそれだけ、彼がこの先どのような態度を取るかで、彼の評価、我々の彼に対する気持ちも決まるだろう。
スケートは天才的だったが、人間的に彼がどのような人だったか、それは知らない。
けれどもたった1度のしかし大きな過ちで、今後、彼の人間性が語られることになるとすれば、彼のスケートに感銘を受けた者としてこんな悲しいことはない。
芸術家に対してアーティストとしては図抜けているが、人間としては失格している、という言い方をすることがある。
けれど、人間として失格していたならば、人をうっとりさせたり、感動させたりするようなことは出来ないだろう。だから、スタビスキーをそのような人だとは信じたくない。
彼がもし復帰してくれば、私はきっと何事もなかったように彼のスケートを楽しみ、称えることと思う。
ただその時、前みたいに無心で果して見ることが出来るのだろうか。
また、スタビスキー自身が何事もなかったかのように明るく楽しく、華やかに観客にアピールしたりすることが出来るのだろうか。
それを見ている観客はそれを受け入れることが出来るのだろうか。
それはその時にならないと分からないことだけれど、けれども私は、スタビスキーのスケートや、素晴らしい演技が本当に好きだったし、今でもそれに変わりない。彼のスケートが好きだ、と誇りを持って言うことが出来る。それだけは確かだ。

11