「はやぶさ2:世界初の観測ロボット駆動装置 開発秘話を語る。」
社会情勢
楽しみですな。
http://mainichi.jp/feature/news/20150107mog00m040011000c.html
>まだ一回もチャレンジしたことのない方法で移動をさせる、全く新しい駆動装置を試してみませんか−−。東日本大震災直後の2011年4月6日、東京電機大(東京都足立区)の栗栖正充教授(50)は1通のメールに目を疑った。差出人は宇宙航空研究開発機構(JAXA)。昨年12月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載された観測ロボットの開発は、こうして始まった。
はやぶさ2には、小惑星に降り立って科学観測をする小型ロボットが4機搭載されている。うち「ミネルバ2−2」を、東北大を中心に東京電機大、山形大、大阪大、東京理科大の5大学が共同開発した。最大の課題は、わずかな重力しかない小惑星の表面でどうやって移動するか。月よりはるかに重力が小さいため、車輪と地面との間で摩擦が起きず、空回りする。地面を蹴るようにしたら、今度は宇宙空間に投げ出されてしまう。
ロボット工学が専門で、宇宙は「金がかかるし、大変だ」と避けてきたという栗栖教授。震災1カ月後の4月11日に開かれた初会合にとりあえず顔を出したところ、「残ってくれ」と懇願され、断り切れずに参加したそうだ。持ち寄った数々の案を基に、その後16回ほどの検討会と実験を重ね、13年6月に5大学が残った。東京理科大が専用カメラ、残る4大学がそれぞれ駆動装置を開発した。
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栗栖教授が考案したのは、永久磁石を使った装置。固定した板状の永久磁石の間に可動式の円筒形永久磁石を置くシンプルな仕組みだ。弱い電気を流すとモーターが作動、歯車とネジがゆっくり回転して、円筒形磁石を一方の固定磁石から引きはがし、もう一方の磁石の方へ動かす。ある程度近づくと、円筒形磁石は「パチン」と固定磁石に吸着する。部品は数ミリ〜数十ミリだがこの時の衝撃で装置が跳びはね、ロボットが最大約1メートル浮き上がる力になるという。
だが、課題は山ほどあった。
まず重さ。ロボット全体を1.6キロに抑えつつ、実験に成功した駆動装置をすべて搭載するため、1装置の上限はなんと30グラムに設定された。500ミリリットル入りの空のペットボトルよりわずかに重い程度だ。栗栖教授は「どうすれば最適なパフォーマンスができるか解析し、マイクログラム(100万分の1グラム)単位で設計した」という。
また、軽量化のため普通のプラスチックを使うと、宇宙では中の気体が抜け、たちまちボロボロになってしまう。モーターの回転部分に塗るグリスも、真空だと全て気化してしまい、役に立たない。
検討の末、衝撃に強い「ピーク」という特殊なプラスチックをメーカーに削り出してもらい、真空状態でも気化しない特殊なグリスを採用。金属同士が張り付かないよう金属ギアに「分子1個分」の極薄被膜を施した。すべて160度〜氷点下40度という宇宙の過酷な寒暖差の中で性能を発揮できる部品でそろえた。できあがった駆動装置は、最大長46.4ミリ、最大幅33ミリ、高さ12ミリ。重量は電線を含め29.2グラムと、見事に30グラムを切った。
「最初にメールをもらったときには『ウソだろ?』と思ったが、今は4年後の小惑星着陸と実験が楽しみ」と栗栖教授。「なにせ、うまくいけば世界初ですもの」と笑顔をみせた。【