2019/9/17

「存在のない子供たち」2018レバノン  今日の映画

 今回は今年観た中でも一番ハードな社会派ドラマ。貧困を描く舞台として、レバノンのシリア難民というのは世界でも一番厳しい場所だろう。これを見るのはかなり厳しい体験になるだろうと覚悟していったんだけど、結果としては思いのほか楽しい映画体験だった。

 「僕は両親を告発する。この世界に僕を生んだ罪で」
 12歳の少年ゼインは両親、弟妹と暮らすシリア難民。学校に通う事も出来ず、生活のために働いていた。ある日、妹が「結婚」で地主の男に連れ去られてしまう。絶望したゼインは家を飛び出し、やがてエチオピア難民の母子と暮らすようになるがそんな日々も長くは続かなかった。子供二人だけで社会に放り出されるゼイン、それでも彼は生き抜こうとする。



 この映画、起きている事だけを見ると本当に悲惨な映画で、自分たちの力で生きていくしかない子供たちと、それを助ける余力さえ持てない大人たちの物語である、告発される側の両親も、この環境の犠牲者というしかないんだよね。ただ、この悲惨な状況に立ち向かい、決して心が折れない少年を主人公にしたことで、見る側もこの苦境に立ち向かいながら見ることができる。

 とにかくこの主人公、ゼインが素晴らしい。彼はこの世界で弱い存在ではあるけれど、百戦錬磨のサバイバーでもあるんだよね。あの環境で家出して、自分が雇われそうな場所を見つけて、自分より弱い人間はギリギリまで助け、身に着けたスキルで金を稼いでいく。最高におかしい「女性の服を脱がしておっぱいを出す」シ―ンは、こんな世界でありながら彼は少しの余裕を残している。
 印象としては「太陽がいっぱい」のようなコンゲームの快感もあるような気がする。彼は最終的に母子を裏切ることになるけど、実はそれは母子にとっても自分にとってもベストの選択だったかもしれないんだよね。
 
 この映画、最終的には希望が残る結末になるし、現実のゼイン君もこの映画をきっかけで北欧に移住し学校に通っているそうだ。シリアの現実は一人の人間、一本の映画で変わるようなものではないし、おそらくもっと厳しい運命に陥る人々の方が多いのだろうと思う。でも、その中から抜け出すことができた子供がいる。それは不公平と考えるべきではなく、この僥倖を祝福すべきなのだと思う。

 今年の映画だと「岬の兄妹」もそうだけど、死ぬほど苦しい環境へバイタリティ溢れる登場人物たちと入っていく映画が多くなっている気がする。そんなストーリーでなければ仮想体験する事すら厳しいのだけれど、この登場人物たちよりも弱い人々のことをも思うべきなのだろうとは思う。
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タグ: 映画



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