2019/12/2

「テルアビブ・オン・ファイア」2018年ルクセンブルク他  今日の映画

 今年観た中東を舞台にした映画は、アフガニスタンの女兵士を描いた「バハールの涙」やシリア人の少年を描いた「存在のない子供たち」などシリアスな傑作を見た。そして、今回はイスラエルとパレスチナ自治区の境界で生きる人々をえがいた作品である。ただし、とにかく笑えるコメディ作品だが。

 エルサレムに住むパレスチナ青年サラームは何をやっても長続きせず、テレビディレクターのおじのつてでパレスチナの人気戦争ドラマ「テルアビブオンファイア」の制作現場でヘブライ語通訳兼雑用として働いていた。ある日、ちょっとした誤解でイスラエル軍の検問で司令官アッシに捕まってしまう。とっさに自分は脚本家だと嘘をつくとアッシはドラマのファンである妻を見返すために自分のアイデアを強引に売り込んでくる。だが、そのアイデアが元でサラームが脚本家に昇格すると、奇妙な共同製作が始まる事に。しかし、ドラマが終盤に向かうにつれて制作陣とアッシの間でサラームは板挟みになる…。



 この映画、昔で言えばダニー・ケイとかが主演してそうなお気楽なコメディで、さえない青年がいつの間にやら出世したり、憧れの幼馴染と主演女優と三角関係になりそうになったり、終盤で突然脚本家として覚醒したりと、今の時代にはそぐわないレベルのゆるゆるコメディである。しかし、その舞台がイスラエルだという事で違った意味を帯びてくる。

 劇中劇「テルアビブ・オン・ファイア」は第2次中東戦争を舞台としており、ドラマの制作陣にとっては民族の戦いを描いた作品である。しかし、ユダヤ人のアッシの妻はメロドラマとして見ている。そしてエルサレムに住むサラームにとっても検問所で働くアッシにとってもイスラエルとパレスチナの対立は怒りや憎しみではなく、迷惑な現実なのである。
 劇中でアッシは執拗にパレスチナの女スパイとイスラエル将校とのロマンスを成就させ結婚させようともくろむ。その為に相当な無茶までしでかしてしまうわけだが、それはパレスチナの監視で一生を終えたくないという現実へのいら立ちがある。結果、やってることは力が抜けるような間抜けさではあるのだけど、その動機には切実な願いを感じる。そして、サラームが出した解決法もまた結果としてはめちゃくちゃだけれど、新しく生まれた一人の俳優の将来には希望を感じさせる。

 この映画、最終的にはほぼすべての登場人物が新しい希望、新しい生活を踏み出して終わる。パレスチナの検問所を舞台にしてもなお笑いがあり、希望があり、新しい夢とともに終わる。それが絵空事であってもそんな絵を描ける空がパレスチナにもあるというメッセージは、現実には無い事だとしても美しいし、心地いいものだと思う。
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タグ: 映画



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