2020/10/20

「マーティン・エデン」2019伊  今日の映画

 今回はジャック・ロンドンの自伝的小説の映画化。当然ジャック・ロンドンはアメリカ人だけど、イタリアを舞台にイタリア人が演じるというちょっと変則的な作品でもある。ロンドンは「野生の呼び声」が実家に合った少年少女文学全集に入ってたかな。マーティン・エデンも読んだはずだけど、あれは高校時代の話だっけ?という感じの印象の薄さだったので、ちょっとだけ読み返した。

 不満は多いけど、魅力ある映画だった。

 貧しい労働者のマーティン・エデンはある時港で絡まれていた上流階級の男を助ける。その男の家を訪問したマーティンは男の妹エレナに一目ぼれし、上流階級に近づくために作家を志す。しかし、成り上がりの成功を願うエレナに対し、マーティンの作家性は自分の出自である貧困層に向かい、社会主義者ブリッテンセンの薫陶を受けたマーティンとエレナの関係には亀裂が入っていく。
 そして、作家としての成功を手にするマーティン。しかし、彼の精神は自らの思想と生活とのギャップによりむしばまれ…。



 この映画の魅力は主人公を演じたルカ・マリネッリのカッコよさに尽きる。今年スクリーンで見た男の中で一番カッコいいんじゃないかしら。正直「オールド・ガード」で見た時はそこまで印象に残らなかったんだけど、ベルリン映画祭でジョーカーに競り勝っただけはある。アラン・ドロンの再来とも言われてるようだけど、若いころのマーロン・ブランドのイメージかな。
 この好演もあり映画の前半は実に素晴らしいと思う。自分が下流階層だと分かっていてもマーティンは卑屈にならないし、荒々しいけれど誰もが好きになるようなチャーミングさが備わっている。そして、創作に向かう彼の姿は誰もが応援したくなるほど真摯。貧しい青年と令嬢の恋は星の数ほどあるけど、二人が恋に落ちる説得力はタイタニックなんかより全然ある。
 ただ、歴史背景はちょっと混乱する。元の話は1900年代のアメリカで、今回は多分1960年代のイタリア。社会主義運動が盛んだったことは同じだけど、共産主義に対するマーティンの態度はどうかな?ストーリーには深く関係しない部分だけど、ラストの「戦争が始まった」の言葉とともにちょっと気になった。

 この映画で問題かなと思ったのは原作からオミットされた部分。作家としての成功の瞬間に第一部は終わり、第二部が始まった時にはすでに破滅へと向かっている。原作では自己評価と世間の評価との乖離、自分が書くべき主題と成功により得た生活との乖離が彼自身をむしばんでいくことを短いながら説得力ある形で描いているが、映画ではすっぽりそこが抜けている。正直、同じ人間に見えないのである。昨今では長すぎる映画が多いきらいがあるが、この映画は後20分長い方が良かったような気がするのだ。

「ある画家の数奇な運命」に続いて「実話を元にした創作伝記」を見たわけだけど、やはりモデルがまだ生きている映画の方が描き方に緊張感がある気もする。決してこの映画も悪いわけではないけれど。
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タグ: 映画



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